かぜをいたみ28

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「あれなあ、マジ、すごかったよな、周辺の学校の女子総出で体育館入りきらんかったもんな」
 そんな昔のことまで持ち出して三田村は改めて感心したように言った。
「あんなあ、ほんまのアイドルやったはる人なんか、比べ物にならんで? いっぺん、工藤さんの車で通りかかったコンサート会場、女の子の膨大な塊が一つになっとって、俺、ほんま、怖かったわ」
 その光景ははっきり言って千雪にとっては恐怖体験でしかない。
「よう、あんなん、やったはる」
「工藤さん、それこそお前をそういったアイドルに仕立て上げたかったんちゃう?」
 三田村が茶化すのを、千雪が「アホか」と言い捨てる。
「せや、お前ら、大澤流て知っとる?」
 思い出したように千雪が三田村らに問う。
「アイドル俳優やろ?」
 すかさず三田村が答える。
「ええ……?」
 途端、千雪はほんとに嫌そうな顔になった。
「大澤流がどないした? 二世俳優とかで七光りで名前が先に売れて、イケメンモデルとか言われて確か、歌も歌うとって、コンサートがまた女の子でぎっしりやて話」
「そいつ、年上キラーとか言うて、美人女優とスクープされとったで、前」
 そんなことを辻も付け加えた。
「そいつやね。ドラマの主演て。もうSNSとかで前宣伝しよるみたいやけど、研二、工藤さんと一緒に行った店に、生意気なガキがおったやろ? あいつやで」
 千雪は研二に向き直って言った。
「ほんまか? あのガキに演技なんかでけるんか?」
 研二は真面目な顔で聞き返す。
「おいおい、世の中の大澤ファンが聞いたら怒るで?」
「大澤にお前ら会うたんか?」
 三田村と辻が口々に言う。
「店で、千雪に絡んできよったんや」
「研二がひと睨みして威嚇したら逃げてったわ」
 フンっと千雪が笑って、梅干しサワーを飲む。
「お前、撮影とかで、そいつに絡まれても喧嘩なんか買うんやないで?」
 研二が真剣に千雪を諭す。
「小林センセがそないなマネでけるかいな。はあ、そこがおもろないんやけどな、オッサンコスプレ」
「でけんでええ。すぐカッとなって突っ走りよるからお前は、ちょうどええわ」
 研二が千雪を睨み付ける。
 研二には、大澤にバレたことは言わない方がいいだろうと、千雪は黙っておくことにした。
 しかも既に大澤とひと悶着あったのだ。
 何かの時には、大澤のことは工藤に盾になってもらうしかない。
 けど、あのオッサン、ほんまに頼りになるんか?
 ドラマのことでもいつの間にか勝手にやりよって。
 ほろ酔い加減で千雪がそんなことをつらつら考えていると、「帰るぞ」と上から声が降ってきた。
 見上げると、案の定、京助が立っていた。

 


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