「来はった」
辻が三田村にドヤ顔を向ける。
「まだ十時前やん」
携帯を見て千雪が言った。
「お前、明日朝イチだろうが」
ぶすっつらのまま、仕方なく千雪は立ち上がる。
「ほな、俺らも河岸変えるか?」
三田村が言った。
「せやな」
頷きながら研二も立ち上がる。
「ワリぃな。こいつ、飲み過ぎると朝なかなか起きねんだ」
そう言うと、京助は伝票を掴んで千雪を追い立てるようにしてレジへと向かう。
「すんまへん、俺らの分まで」
エレベーターホールで申し訳なさそうに礼を言う研二の横で、「ごちそうさんでした」とちゃっかり辻が言う。
「あ、せや、肝心なこと言うの忘れ取った」
三田村をみんなが振り返る。
「十一月末に式挙げることになったんで、京助さんも披露宴来てください」
すると辻や研二も、おおっと声を上げる。
「やっと決まったんか?」
千雪が聞いた。
「まあなあ、何せ、うちと桐島のうち、かぶっとるやろ、家業が」
「ああ、揉めとるゆうとったな」
研二が頷いた。
三田村の父親は西日本建設という関西でも名の知られた建設会社社長で、三田村は現在その東京支社に勤務している。
フィアンセの桐島恵美の家もまた近所では有名な建築会社で、マンションや公的施設、個人住宅を専門とするデザイナーズブランドを持っている。
「まあ、シェアいうか、顧客が違ごとるし、そこはまあそれぞれ棲み分けいうか、親同士も納得しよって」
「長い春だったな」
からかい気味に京助が言った。
「や、もう、あかんかと思うたこともあったし」
「何せ、向こうはアーティストやからなあ」
桐島に距離を置こうと言われて三田村がしょげていたことがあったのを思い出して、千雪がボソリと言う。
「もう、とっとと結婚さえしてもうたら、桐島が海外で年中不在やろうともう」
三田村も以前は提携会社に出向し、ドイツの支店に勤務していたこともあったのだが、桐島は演奏会で世界中を飛び回っているため、結局どこにいても同じだと諦めたらしい。
「せえけど、よう、桐島、思い切ったなあ」
研二がニヤっと笑う。
「やからもう、ほんま、十一月がはよ来てくれんと」
「お前が頑張ったかて四か月経たんと、けえへんで?」
「うっさいわ」
三田村は辻の腹に軽く拳を入れる。
他の階のお客がどっと降りたらしく、ようやくエレベーターのドアが開く。
三田村を先頭にみんなが乗り込むと京助が最後に乗ったところで、「すみません」という声とともに若い女性が二人店から出てきて乗ってきた。
「あっと、その前に、桐島からも言われとるんやけど、都合が合えば、久美子の命日に向こうでみんなで会わへんかて」
降下するエレベーターの中で三田村の発言に、一瞬沈黙が走る。
「菊ちゃんからもライン来とった。休み取るし」
千雪が言った。
「行かなな」
研二も追随する。
「俺は店長だからいつでもOK」
辻が当たり前のように同意する。
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