「ああ、ええんや。まだ、やんの?」
「論文、明日までに提出だからな。お前はとっとと寝ろ。明日早いんだ」
そう言うと京助はまたパソコンの画面に戻る。
やから、忙しいのにわざわざ迎えなんかええ、言うたのに。
千雪は心の中で呟くが、確かに飲み過ぎて朝なかなか起きれなくなっていたかもと思うと、ここは有難く頭を下げておくことにする。
「ほな、お休み」
「おう」
千雪は螺旋になった階段を上がって行く。
寝室には一応ドアがあるが、特に夏などは大抵開け放している。
ど真ん中にキングサイズのベッドがドンと置かれている。
千雪がここに住むと決まると、家具から何から小夜子と紫紀までがああだこうだと言い合いながら、手配を済ませてしまった。
ただ、ベッドとキッチンは京助がたったか決めた。
京助がいなければどんなに寝相が悪かろうが快適なのだが。
「ってか、俺の部屋やろ」
よくよく考えるとそこに突き当たるのだが、千雪としても今さらな話だ。
それにあくまでも千雪の部屋だから、間違っても速水が勝手に入ってくることはない。
まあ、京助の部屋も今は鍵も換えてパスワードも変更したはずだから、どちらにせよそういう心配はないはずだ。
速水の名前を思い出すと、どうしても最悪な初対面の時のことが蘇る。
イラつくことはうっちゃっておいて、千雪は先ほど気が付いたことを頭の中で反芻した。
あれは、あのパールピンクのデコラ携帯、あの子が持ってたやつとちゃうか?
思い出したのは、研二の店『やさか』にいた栗色の髪の、夏のドレスがよく似合う若く可愛い女性だ。
その子が持っていたのと、さっき居酒屋にいた二人組の女性のうち一人が持っていた携帯がよく似ている気がしたのだ。
無論、似たような携帯を持っている子ならいくらでもいそうだが、同じ緑の目の猫がくっついているとか、そんな偶然があるだろうか。
ただし、居酒屋にいた女性は金髪のシャギーカットで、キャミソールにデニムを履いていた。
ってか、まあそれこそ服装などはいくらでも換えられるわけだが。
仮に同一人物だとしてや、女の子が俺らを付け回したりしてどないするねん。
うーん、俺ら、やのうて、俺、かも知れへんけど。
千雪は居酒屋で女の子たちに囲まれたことを思い起こす。
いやいや、それやったら何で『やさか』にいたん?
考え始めるとわけがわからなくなりそうなので、そこで千雪は目を閉じた。
やがて、みんなで騒いだせいか、心地よい疲労感にいつの間にかすーっと眠りに落ちていた。
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