かぜをいたみ32

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    ACT 3

  
 ここのところの猛暑には人間だけでなくウンザリしているようで、蝉の鳴き声すらジージージージーとうざったく聞こえる。
 ただ、今日は多少風もあって、まだ過ごしやすかろうと、千雪は外のテラスでまったりとランチを取っていた。
 来週あたりから前期試験に入るので、学生たちは俄然焦り始めているらしく学食は熱気が充満しているし、暑さのせいか、研究室の先輩らもイラついているのがウザくて、千雪はとっとと外に出てきたのだ。
 そして木立の影になるこのテーブルは特等席のはずだった。
「ああ、せんぱいい、やっぱここや!」
 暑苦しい声を耳にして、今朝出がけに京助に持たされたランチバッグからおにぎりや卵焼きやウインナ、ブロッコリーのドレッシング和えが入ったタッパを取り出した千雪は眉間に皴を寄せた。
「今日のランチはハイキング気分でっか。いつ見ても美味そうや」
 テーブルの上に並んだ千雪のランチの品定めをしながら、コーヒーを手に佐久間は向かいに座った。
 千雪にけなされようが罵倒されようがへとも思わないこの佐久間の図々しさはもはや尊敬に値する。
「何か用か?」
「またまた、そのいけずな視線、可愛い後輩と楽しくランチの図には似合いまへんで」 
「ウザい後輩の間違いやろ」
 しかし、ウザいことは重なったりするもので、ややあって「おやおや、名探偵ってば、こんなところでハイキングしてるし」などという台詞とともにやってきたのは、犯罪心理学の助教、速水だ。
 腹が減っているし、一言えば二返すべきだとでも思っているらしい速水と問答をやるつもりはなく、ジロリと睨んだだけで、千雪はおにぎりを齧る。
「今日もまたシンプルだが美味そうだな、おかあさんの手作り弁当は。やっぱりおにぎりとくれば卵焼きにウインナが食べたくなるよね」
 佐久間の横に腰を下ろして、速水はコーヒーを飲む。
「わ、おかあさんの手作りなんですか?」
 意外な声が速水の後ろから聞こえた。
「木村さん、久しぶり! あれ、就職したんやなかった?」
 佐久間が木村と呼んだその女性は空手部のマネージャーの一人で、京助と千雪が留学する前は、よく同級生でミスT大と言われた伊藤涼香とともに一緒に行動していた。
 二人が留学しているうちに、木村も伊藤も卒業したはずだ。
「はい。今日はちょっと図書館に寄ろうと思って。就職っていっても母の会社で母の秘書見習いみたいなことをしてて、結構自由にいろいろやらせてもらってるので」
 木村は今日も千雪の記憶にある、地味目のスーツにボブヘア、黒縁メガネである。

 


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