かぜをいたみ33

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 以前、自分の書いた推理小説を一方的に千雪に送りつけてきたというか、おそらく自分でドアポケットに入れていったであろう、ペンネーム家図愛と書いてホームズラブがこの木村女史だったわけだが、自分より、相応の編集部に投稿した方がいいだろうとアドバイスをしていたが、千雪の留学中はどうしていたのかわからない。
 ちょうど留学前は文章が書けなくなって、それまで細々と原稿を依頼してくれていた編集部は千雪を見限ったようだったし、千雪も紹介できるような編集者がいなかったことは申し訳なかったと思っている。
 実際、木村とは面と向かって話したこともないし、今ここで、そのことについて云々と話すつもりはない。
 そういえば、京助が事故って入院した時、ちょっとやり取りしたことあったか。
 千雪は木村の相変わらずの黒縁メガネは、本人にどうも似合わないと改めて思う。
「そうや、木村さんのお母さんの会社ってより、お母さんって、超有名デザイナーのヒロミ・トミタやて? も、全然そないなこと云うてなかったやん」
 佐久間が言うと、「だって、お母さんなんて、何も関係ないじゃないですか」とちょっと不満そうな顔で木村は答えた。
「あ、せや、先輩! ミスT大やった伊藤さん、NTVのアナウンサーになったて、知ったはります?」
「知らんけど」
 千雪はおにぎりを食べ終えると、お茶に手を伸ばした。
「ったく、先輩、ほんまに周りのことに興味もたはらんし。美人で明るいて、今、人気アナ一番手争いでっせ?」
「ああ、彼女、頑張ってるよね」
 速水も佐久間の熱弁に頷いた。
「木村さん、最近伊藤さんと会うたりしてる?」
 佐久間が聞くと、木村は「そうですね」と言った。
「中学からずっと同じ学校だし、家が近所だからたまに。でも伊藤さんほんとに忙しそうだし、最近はゆっくりおしゃべりもしてないなあ」
「え、木村さんもF女学院?」
 佐久間が有名なお嬢さん校でかつ進学校として知られる学校の名前を言うと、「ええ」と木村は答えた。
 その時、木村の肩から掛けている大きな渋い革のバッグから携帯のコール音が聞こえた。
 木村がバッグから携帯を取り出すのを、何気なく眺めていた千雪は、「ママ、え? パーティ? 行かないわよ、そんなの」と少し横を向いてちょっと強めの口調で電話に応えている木村の、その携帯に目をとめた。
 パールピンクのデコラ携帯?!
 千雪はそこで一気にこの木村女史の正体に突き当たった気がした。
 木村の似合わない眼鏡の違和感も即座に理由が判明した。
 何もコスプレをやっているのが千雪一人ではないということだ。
 木村の小説の中でも探偵役の女子が、くるくる変装しまくっていたのを思い出した。
 ってか、俺なんかより、七変化してへん?
 どれがほんとのこの子なんや?
 


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