かぜをいたみ34

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 一番、自然だったのはやさかで会った栗色のふわっとした髪と品のいい夏のドレスに身を包んでいた、大きな目が印象的な彼女だろう。
 ん? てことは、彼女、やっぱ俺の後をつけてた?
 ってか、俺のこと知っとるいうことか?
 千雪は頭の中でそんなことを思いめぐらせながら、眼鏡の奥からチラリと木村を見た。
 にしても大学にいる間、このボブヘアと眼鏡の変装で通しとった?
 とすると、俺なんかより、筋金入りやん!
 千雪はまだ携帯で母親とああだこうだとやり取りしている木村をチラッと見やる。
 この子、どっちの俺をつけとった? ここにおるオッサンの俺? それともコスプレ抜きの俺?
 まあ、どっちでもええけど、何のために?
 また原稿見て欲しいとかやろか。
 ってか、どっちも俺やってわかってんやろか。
 千雪はちょっと首を傾げるが、少なくとも佐久間や速水がいるとこで、彼女に問いただすわけにもいかんしなあ。
 特に速水なんか、面白がってまた俺をからかうネタにしよるんが目に見えるようやし。
「わかったわよ。八時までには帰るから。それまで? いろいろやることがあるの!」
 木村は少し声を張り上げてから携帯を切った。
「何、ママと喧嘩?」
 速水がニヤニヤとからかうように聞いた。
「何か新しいブランドのお披露目パーティとか、もう私そういうの大っ嫌いなんです。ママにもそれは言ってあるのに」
「まあ、親ってのはいろいろ面倒なもんだよね。そういえば、可愛い携帯だね」
 すると木村はハッとしたように携帯をバッグに仕舞う。
 眼鏡の奥からこそっとそれを見ていた千雪は、うーん、これはもしやわざとデコラ携帯見せたんやろか、とも思う。
 俺に実は正体をわかって欲しいとか?
「俺、三限終わったら、速攻で青山行かなんよって、佐久間、宮島先生の資料揃えとって」
 弁当を食べ終えた千雪は立ち上がると、空になったカップを佐久間の手の中のカップに突っ込み、たったか研究室に向かう。
 これで彼女がどう出るかやな。
 時間があればやけど、またついてくるか知れんし。
 千雪の思った通り、木村は校門を出た頃からつかず離れず、千雪の後をついてくる。
 しかし、先ほどの地味なスーツではないし、黒縁メガネはしていない。
 栗色のセミロングの髪を後ろで編み込みにして、淡いブルーのワンピースに着替えている。
 ただし、存在感をさほど主張しない渋い革の大きなバッグやベージュの低めのヒールはそのままのようだ。
 千雪は地下鉄へと階段を降りると、丸の内線池袋方面行きに乗った。
 


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