かぜをいたみ35

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 後楽園で降りると少し歩いて南北線に乗り換える。
 ドア近くに立って窓越しに社内を見ると、木村もやはり同じ車両の後ろの方に乗っている。
 麻布十番駅で地下鉄を降り、地上に出てから千雪はマンションへと向かう。
 大学まで約三十分のこの路線も最近慣れてはきたものの、やはり歩いて数分の距離にあった前のアパートは千雪にとって便利だったと時々思わないではない。
 マンションのエントランスに着くと、昼間の担当ガードマンであるエイデンがにっこりと千雪を出迎えた。
 ガードマンは六人いて、朝から夕方、夕方から夜中、夜中から朝と交代でつめているが、全員が紫紀が直接面接をした留学生のアルバイトである。
 京助と千雪以外、海外から赴任しているのは主に役職にある社員がほとんどのため、コンシェルジュというよりガードマンとして、英語は必須、かつ身体が大きく武術や護身術にたけていることを最低限条件としている。
 建物全体は東洋グループが警備会社と契約をしているため、それだけでセキュリティは万全だが、エントランスにエイデンらが立っているだけで、防犯対策の役目も果たしている。
 上下ジャージを脱ぎ捨てて手早く白のTシャツにインディゴのオープンカラーシャツを羽織り、同系色のスキニーパンツに着替えると、リュックを肩に引っ掛けてスニーカーを履いた。
 また麻布十番駅から地下鉄で六本木まで行き、そこから地上に出て乃木坂駅方面へと歩く。
 実際は青山プロダクションに行く用などないし、夕方は久しぶりに銀座で小夜子と会うことになっている。
 雑貨ショップで立ちどまってみたりして、木村がついてきているのかを確認すると、案の定ついてきている。
 うーん、これは、やっぱ本人に直接理由を聞いた方がはやいな。
 千雪は途中にあったカフェに入った。
 奥のテーブルに陣取ると、ややあって木村もドアを開けて入ってくるのが見えた。
 コーヒーを注文し、木村がテーブルにつくのを待って、千雪はリュックを持って立ち上がり、木村の向かいにすとんと腰を降ろした。
「なあ、俺に何か用があんの?」
 頬杖を突き千雪は驚いて見つめる木村に問いかけた。
 千雪にコーヒーを運んできたらしいホールスタッフが「こちらでよろしいですか?」と声をかけたので、「はい」と頷くと、スタッフは千雪の前にコーヒーを置いた。
「えと、私もコーヒーお願いします」
 木村が言った。
「『やさか』でも居酒屋でも、たまたま偶然とちゃうよね?」
 スタッフが去ると、あらためて千雪は尋ねた。

 


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