かぜをいたみ5

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 番組で取り上げる原夏緒のいくつかの絵について、ここでは彼女の息子である小林千雪に語らせることになっていた。
 ミステリー作家としてだけでなく、警視庁に協力してこれまで幾度となく難事件解決に貢献し、そちらの方が有名になってしまったせいで、千雪はテレビ出演など時折依頼されることもあるが今までは一切受けつけたことがない。
 始めはちょっとコメントのみという話だったが、工藤の意見で、万里子の質問に答える千雪、というカットも入ることになった。
 さらに、何点かの絵について千雪がコメントするカットも予定より撮影が長くなった。
 あらかじめ、どの絵を取り上げ、どうコメントするかは、シナリオが千雪にも届いていたが、あらためていくつかの絵が、母の夏緒が絵を描いていたその頃のことを千雪に思い起こさせることとなった。
 U美術館にある夏緒の数点の絵の中のひとつに、向日葵と子供たちを題材にした八〇号がある。
 子供たちの表情が豊かで、沢山の向日葵に囲まれた清々しい空気が感じられる絵だ。
 小学校の四年生の頃だったと、千雪は当時の情景に思いを馳せた。
 描かれているのは千雪と、そして研二だ。
 カブト虫と無心に遊ぶ笑顔が可愛い。
 あの研二のいつもの仏頂面を思い浮かべて千雪は苦笑いする。
 モニターに映し出された絵をじっと見ているうちに胸が痛くなった。
   

 撮影が終わると夜の八時を回ったところだった。
「これから食事でもいかがですか?」
 工藤は石塚教授に尋ねたが、「いや、申し訳ありません。今日は娘がロンドンから戻ってきたので、家で食事の約束をしているんです」と石塚教授は丁重に固辞し、工藤が呼んだタクシーで早々に帰って行った。
「お前らはメシ、行くんだろ?」
「美味しいお寿司、食べたい!」
 工藤の問いかけに万里子が張り切って答えた。
「俺も腹減ってるんやけど、待ち合わせあるんや」
 寿司は魅力的だが、と千雪は逡巡した。
「京助なんか放っとけ」
 工藤はすかさず言い放つ。
「京助やのうて、教授やないけど、ニューヨークから戻ってきた友人と会う約束してて」
「だったら、そいつも一緒に行けばいいだろ」
 そう言われると千雪もまた迷う。
「ほな、人見知りとかするやつやないし、店教えてくれたら知らせます」
「じゃあ、久寿田にするか、銀座の」
「わ、三ツ星! 工藤さん、太っ腹!」
 万里子が嬉し気に声を上げる。
 早速工藤が電話を入れて個室を頼むと、すぐにOKが出たようだ。
「久寿田……銀座八丁目……やな」
 千雪は携帯で店を検索し、プロデューサーが奢ってくれるのでこの店に来るようにとラインで相手に伝えた。
「留学生か?」
 タクシーに乗り込むと、工藤が千雪に聞いた。
「向こうの大学で知りおうたんですけど、高校からずっとニューヨークにいてて。ちょくちょく日本にも帰って来てたみたいやけど、今回はきっちり帰国らしうて。工藤さん、知ったはります? 檜山匠て、能楽師の」
 助手席に座っていた工藤は千雪を振り返った。
「狩野流のか?」
「やったけど、匠は狩野流とは縁を切ったとか言うてました」

 


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