どこが、いうてはっきりわかれへんけど。
千雪はグラスを弄びながら工藤に目をやった。
「良太ってば、どしたん?」
アスカの心配そうな声に、千雪は良太を振り返る。
「あ、うん、平気…」
「平気って顔じゃないわよ。工藤さん、良太こきつかってるでしょう? こんなに痩せちゃって」
「これしきでくたばるようなヤワなやつは、うちにはいらない」
工藤が鼻で笑う。
「でも、ね、もう休んだら? 今夜は内輪だし、片づけなんか明日でいんだから」
アスカが言った。
「あの…すみません、そうさせてもらってもよろしいですか? 社長…」
青い顔で良太が工藤に訴える。
「仕方ねぇな」
工藤は不機嫌そうに頷いた。
「お先に失礼します」
良太はぺこりと頭を下げて出て行く。
「えらい青い顔してたで、大丈夫かな」
千雪は良太の後姿を見送って呟いたが、それから工藤を見て、また首を傾げる。
煙草をくわえたままぼんやり、どことはなく視線を彷徨わせている。
そんならしからぬ工藤はあまり記憶にない。
「何で大澤が千雪センセを知ってるんだ」
その時後ろで俊一が流を捕まえて問いただしているのが、千雪にも聞こえた。
「ああ、俺? こないだTスタのトイレで小林先生が安西のマネージャーに襲われてんの、俺、助けたんだ。そん時さ」
「なんで安西のマネージャーが先生を襲うんだよ?」
流の発言に俊一が声を荒げる。
「だから、何でドラマに俺を起用して安西を落としたんだってさ、安西のマネージャーが先生に詰め寄ってたんだ」
「何いぃ!?」
俊一の表情は益々険しくなる。
「ちょっと頭に血ィのぼっとっただけやろ、あのオッサン。とっくに目ェ覚めてるやろ。きっと安西さんは何も知らんこっちゃ」
フン、と千雪は面白くもなさそうな顔で言った。
「そーやって、すぐ気許す! ユキは! 安西豊ってここんとこ人気下がり気味じゃない? あの人、流みたいにアクないしね」
とは容赦ないアスカ。
「どうせ俺はアクだらけだよ」
流が応戦する。
「だらけじゃなくて、存在自体がアクだモンね。自己中で我侭で」
「そっくりお前に返してやるぜ」
「言ってくれるじゃない!」
二人のやりとりがおさまりそうにないのを見て、「どっちもどっち言うこっちゃな」と、ポロッと千雪の口から零れる。
「ユキまでそれ、ひどくない?! 写真撮られたことは謝ったじゃない!」
一瞬にして場は静まり返る。
「ちょっとぉ、何それー、どーゆーことよ!?」
万里子が憮然としてアスカに詰め寄る。
「まさか、ひと月前の、あれ、千雪だったのか?」
俊一までが納得という顔でニヤニヤ笑う。
思い出したくもない。
夏本番を迎えた蒸し暑い午後のことだった。
まさしく苦虫を噛み潰したという顔で法学研究室にやってきた京助が、手にした週刊誌を何も言わずに千雪に突きつけた。
千雪はなにごとかとページをめくり、果たしてそこに、アスカを家に送っていったまさにあの日の写真がデカデカと出ているのを見て、フン、と眉を顰めた。
千雪の顔を隠すようにアスカが写っているので、この写真だけでは千雪と断定はできないが、千雪を知るものならすぐわかる。
「どないしたんです?」
研究室の後輩である佐久間が千雪の肩越しに雑誌を覗き込むなり、ゲッと呻く。
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