ゆうされば14

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「夫婦は仲悪かったんですか?」
 何となく気になって千雪は聞いた。
「いや、栄子の話しぶりからは、夫をかなり大切にしているのが見て取れた。夫も関係しているのかとこちらが突っ込むと、夫は一切関係がない、と断言した」
 すると家庭内は円満やったわけか、と千雪は心の中で頷いた。
「松岡さんのご家族は?」
「子どもはいなくて、夫婦と犬だけのようだ。栄子の父親は松岡の大学の学部長で、松岡と栄子はあの大学の同じ学部に所属していてそういった縁で結婚したらしい」
「はあ、そうなんや」
 ほな、あのワンコ、今度は奥さんがおらんよになって、寂しがっとんのやな。
 人間はどうでも千雪は犬に同情した。
「上は、栄子をホンボシと見て、何が何でも吐かせるつもりらしいが」
 そこで渋谷は言葉を濁す。
「何かあるんや?」
「実は奇妙なことがわかって」
「奇妙なこと?」
 聞き返しながら、やはり何かあったのか、と千雪は身を乗り出すようにして渋谷を見た。
「実は被害者の杉浦のことを調べてたら、十年前に事情聴取を受けていたことがわかった」
 渋谷は硬い表情で言った。
「何の容疑で?」
「十年前、小学生の誘拐事件があったことを覚えていないか? 当時全国ネットで報道されたんだが、清瀬市の五年生伊藤春奈ちゃんが誘拐されて、二週間後、奥多摩の山中で遺体で見つかった」
 千雪は頷いた。
「覚えてます。高校の時、無事に帰ってほしいて、みんな思うとったんやないですか」
「あの事件の時、当初母親のところに犯人から身代金の要求があって、母親は悩んだが警察に知らせてきたため警視庁捜査一課が動いたんだ。金の受け渡し場所に指定されたのは公園だったが、そこに向かった母親の携帯に犯人から連絡が入り、母親がいきなり動いたんで、捜査員もその後を追った。ところが近くの橋へと向かった母親は、犯人から指示されたらしいが、金の入った黒のリュックを橋から投げ落とした。それを下にいたパーカーのフードを被ったサングラスの男が受け取って自転車で逃走。捜査員も男を追ったが、途中でガードをくぐった。やがて男を捕まえたところが、フードを取ってみたら中学生で、リュックはもぬけの殻。中学生はバイト代をもらってガードの物陰から自転車を走らせていただけだった」
 一気にそこまで話し終えると、渋谷もついため息を吐く。
「全く、大勢の捜査員がまんまとしてやられたのさ。痛恨の極みもいいとこだ」
「ほんとですね」
 辛辣に口にする千雪に苦笑して、渋谷は続けた。
「ガード横の細い道にマスクの男が立っていたのを見た捜査員もいたんだが、自転車の男を追いかけるのに必死で、金も男も消え失せた」
「身代金ていくらやったんです?」
「五千万」
「金はお母さん用意できたんや?」
「親戚に借りたと言っていたが、結局金も春奈ちゃんも戻らず、警察の失態をマスコミからも散々つつかれたが、とにかく警察総動員で、当時ペーペーの所轄勤務だった俺も、春奈ちゃんの捜索に駆り出された。身代金の引き渡しが春奈ちゃんがいなくなった翌々日だったが、約二週間後に、春奈ちゃんの遺体が埋められているのをたまたま犬を連れて山歩きをしていた夫婦が見つけた。さほど高い場所ではなかったし埋められ方も杜撰だったが、あまり人が通らない場所だったから、犯人としては見つからないことを想定したかも知れないが」


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