ゆうされば15

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 一呼吸おいて「まあ、とにかく」と渋谷は言った。
「バイトの中学生や、男がガード横に立っていたのを見た捜査員の情報から似顔絵も作ってみたものの、中肉中背、マスクにサングラスの男は結局見つからなかった。ただ、下校途中でいなくなった春奈ちゃんが歩いているところに白い車が停まっていて、ナンバーの末尾が5だったことと、車種がカローラだったことで、都内在住の車の所有者の当日のアリバイを徹底的に調べた。今回の事件で杉浦の名前が検索に引っ掛かったのがそのリストだったんだ」
「杉浦のアリバイあったんですか?」
「いや、当時、杉浦は世田谷区で父親がやっていた小さな不動産屋を手伝っていて、あちこち走り回っていたっていうんだ。他にも数人、似たようなアリバイ状況の者もいて、それ以外に決定的な証拠もあがらなかったから、結局事件は未解決のままだったが、気になったのは数年後杉浦がバーやクラブを経営し、不動産会社の方も羽振りがよくなったってことだ。捜査本部は縮小されたし、車で引っ掛かった男のことなんかどっかに追いやられていたから、今回名前が引っ掛かるまで杉浦が何者かなんて誰の記憶にも残っていなかったくらいだ」
 千雪もそのことに対して突っ込むつもりはない。
 松岡の妻をホンボシと決めてかかっている本部の方針に反してわずかながら浮上した疑惑が渋谷を動かしているのだ。
 と、その時、オフィスのドアが開いて良太が戻ってきた。
「千雪さん、と渋谷さん? お疲れ様です」
 何ごとだろうという顔で良太はとりあえず声をかけた。
「あ、お疲れ様。申し訳ない、千雪くんがここにいると聞いて、ちょっと話したいことがあったものだから」
 事件のことで夢中になっていたので、渋谷は人のオフィスで社員ではない千雪と顔を突き合わせていることに、今はたと気づいた。
「他にもここで仕事したりしてるよその事務所の人もいますし、あいてますので、ご遠慮なく」
 歓待もしないが追い出すこともしないといった良太の態度に渋谷はハハハと苦笑した。
「なるほど、渋谷さんの中では杉浦が春奈ちゃん誘拐犯の可能性大いうことですか」
「いや、あくまでも疑惑というか、ま、確かに俺の中ではそうなんだが、今度はここにきてなぜ杉浦が殺されたかという疑惑がまた出てきたわけで」
「捜査本部では、松岡さんの妻が杉浦を殺したいう動機についてはどう考えてはるんです?」
 すると渋谷は一層難しい顔をした。
「そこなんだよ。確かに、殺された杉浦のマンションから走り出てきたのを見られているし、松岡栄子が第一容疑者なんだが、杉浦と絵のことで口論していたというだけで、まあ、数千万単位のやり取りだから、あり得ないとは言えないものの、それが動機というには希薄過ぎる気がするんだよ」
「ですよね」
「だから、何か他に動機があるんだろうとふんで、吐かせるつもりらしいんだが、栄子は泣き喚いて否定している」
「はあ。なんかむやみやたらに自白させるて、冤罪の元やないですか」
 呆れ顔で千雪は言った。

 


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