ゆうされば16

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「証拠もそうないくせに捜査本部が作ったシナリオに合わせようとか、怠慢や思うわ」
 辛辣な言葉を口にする千雪に、渋谷は苦笑いする。
「栄子や杉浦についての聞き込みは引き続きしているんだが、めぼしい情報が出てこなくてね」
「松岡さんは何て言ったはるんです?」
「あり得ないってね、警視庁までやって来て妻を待ってるよ。栄子の会社の顧問弁護士が接見しているが、進展はない」
「それで渋谷さんだけが杉浦が過去の事件に絡んでると見て動こういうわけですか」
「小沢警部も管理官らの栄子だけに的を絞ったやり方に多少疑問も感じてるんだが、上の決定を覆すだけの証拠があるわけでもないから、俺だけでこっそりやれとね」
 ふう、と渋谷はそこで大きくため息を吐いた。
「春奈ちゃんのお母さんは、今どないしたはるんです?」
「それが前の住所を訪ねてみたら引っ越した後で、桐生市の実家まで行ってみたところが、去年亡くなってた」
「去年、ですか」
 千雪は少し気になった。
「実は伊藤春奈ちゃんの母親の奈美さん、春奈ちゃんが亡くなって以来精神を病んで、実家に引き籠ってたんだが、近年は病院に入院してたらしい。それが去年ちょうど春奈ちゃんが亡くなった秋頃に錯乱状態で外に出て事故死だったと」
 悲惨な最期のようすに千雪は眉を顰めた。
「そういえば春奈ちゃんの父親は?」
「当時、奈美さんはシングルマザーだったはずだ。奈美さんは捨てられたからとか言って、父親の名前は出さなかった」
「そのあたりも、調べた方がええんちゃいます? 当時の奈美さんの学友とか、知ったはるかも」
 千雪が口にすると、渋谷の目が俄然輝きを増した。
「全くだ。ありがとう。少し頭の中で整理がついたよ」
 すぐと渋谷は立ち上がり、「お邪魔しました」と良太や鈴木さんに声をかけてからオフィスを出て行った。
「ほんまに、何を調べるかやなんて俺が言わんでも、わかるやろ」
 ぼそりと千雪は言った。
「こないだの事件ですか?」
 そう言いながら良太は自分と千雪にコーヒーを持ってやって来た。
「捜査本部がアホやから、渋谷さんが迷走したはるんや」
「はあ、事件のあった部屋から逃げたやつがいるとかってニュースで言ってましたけど」
 良太は千雪の向いに座ってコーヒーを飲む。
「捜査本部は容疑者を取り調べしよるねんけど、確たる証拠もないまま、自白に持ち込もういう魂胆らしうて、渋谷さんは違う方向から調べてみるみたいや」
「って、千雪さんも加担するわけですか?」
「俺が、何でや」
 千雪は白を切ったが、「またまた、首突っ込む気、満々じゃないですか」などと良太が揶揄する。
 まあ、確かに、気になるわな。
 特に、あのワンコの飼い主、の奥さんが容疑者やし。
「ひょっとしたら昔の事件が関係しとるかもらしい」
「そうなんですか?」
「調べてみんとわかれへんけどな」
「名探偵の腕の見せ所?」
「フン、ま、被害者の部屋から立ち去ったいうだけで容疑者や決めつけるアホな警察よりはマシや思うわ」
「真犯人、徹底的に見つけてくださいよ」
 良太は言う。
 千雪はそんな良太を見ながら、ほんまに打たれ強いいうか、去年あんな事件に会うたのに、ケロッとしとるわ、などと思う。
 また、あいつらに協力させるか。
 昨年、良太が散々な目にあった事件の時も手を借りたが、今は中古車販売店店長をしている高校の同級生の仲間にITに滅法強い男がいるのだ。
 
 


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