ゆうされば17

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「加藤? 俺、小林やけど」
 青山プロダクションのオフィスを出ると、千雪は携帯でITに強い加藤を呼び出した。
「実はちょっと調べてほしいことがあるねんけど」
 加藤は寡黙で常に冷静な男だが、もともとは横浜あたりの走り屋で、その関係で昔関西で走り屋の総長なんかをやっていた千雪の同級生辻と息があったらしい。
 千雪も辻に紹介されて加藤と顔見知りになったのだが、きっちりビジネスとしてやり取りしてくれるのがありがたい。
「十年前の誘拐事件か。わかった。調べて連絡する」
「それと、こないだ殺人事件あったやろ。杉浦って被害者、この人のこともよろしゅうに」
 部屋に帰ると、千雪は自分でもネットで事件のことを検索してみた。
 すると、奈美が娘の春奈と暮らしていたアパートの住所や地図なども出てきた。
 ただ、杉浦の方は世田谷通りにビルを建てて前の小さな事務所から移転したくらいで、大したことはわからなかった。
「明日、気分転換に清瀬行ってみよか」
 ひとり呟くと、千雪は京助の作り置きの炊き込みご飯をレンジに放り込んだ。
 京助は朝から大学のモルグに籠っている。
 昨日のビル火災で何人かの犠牲者が出たらしい。
「つまらん。やっぱワンコいたらええなあ」
 千雪はほかほかの炊き込みご飯を頬張りながら、また松岡の愛犬を思い浮かべた。

 首都高から清瀬市へと千雪はハンドルを切った。
 辻に勧められた車は黒のアウディで、千雪のリクエストどおりあまり目立たず静かな走行の型式は昨年だ。
 バイクは自由だが、PCやタブレットやちょっとした着替えをするにも車の方が都合がよいので、最近は車を使うことが多い。
 清瀬市に足を踏み入れたのは初めてだった。
 東京都でも豊かな自然が目を和ませる。
 だが観光している暇はなく、千雪は今朝方加藤から入った情報から十年前まで奈美が働いていたという花屋を訪ねることにした。
「『レーヴ』、このあたりやな」
 目指す花屋はすぐ見つかった。
 数台分の駐車場を持つ比較的大きめの店だ。
 ちょうど一台車が出たので、千雪は車を滑り込ませた。
 様々な花の香りが千雪を包んだ。
 辺りを見回しながら、千雪は店内を歩く。
 上等な花から誰でも手が届きそうな庶民的な花まで豊富な種類を取り揃えている。
 千雪はキャッシャーカウンターでお客を待たせて忙しくブーケを作っている女性スタッフを見た。
 年齢は四、五十代くらいだろう、ひょっとしたら奈美が勤務していた頃を知っているかも知れないと千雪は思った。
 ブーケを受け取った客が帰ると、千雪はカウンターに歩み寄った。
 すると女性スタッフは一瞬千雪を見つめて固まった。
「大きめのブーケを作ってほしいんですが」
 そういった反応には慣れている千雪は構わず言った。
「は、はい、えーっと、どんな花がよろしいですか? お色とか」
「薄いピンクのバラを中心にあとはお任せします」
 千雪にしては最大限に気前良い笑みを浮かべた。
 途端女性は「ちょうどぴったりのバラが今朝入荷したんです」と弾むような口調でカウンターを出ると、そのバラを取りに行った。

 


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