ゆうされば19

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「実家に帰られたいうことは、奈美さんのご主人も?」
 千雪はわざとそんな質問をした。
「いいええ、ほら、今はやりのシングルマザーでしたから、奈美さん」
「お付き合いされてる方もいらっしゃらなかったんですか?」
 千雪は少し突っ込んで聞いてみた。
「うーん、いなかったみたいねえ。あんなきれいな人なのに。帰る日にはご両親がご挨拶に見えましてね、何でも桐生の資産家の家だとか、後で聞いた話ですけどね」
 ほんとに、気の毒で、と大石は大きくため息を吐いた。
 千雪がブーケを受け取って車に戻ると、携帯が鳴った。
「今、清瀬市におる」
 京助からで今どこにいると聞いてきた。
「清瀬市? 何で」
「まあ、次の話のネタ探し?」
 千雪は適当に言った。
 事実を知ったら、また事件に首を突っ込むな、とか凄んでくるに違いない。
「早いとこ帰れよ。照り焼きチキン食いたいって言ってただろ」
 それを聞いた千雪は現金にテンションがあがる。
「ほんま? すぐ帰るわ」
 千雪は携帯を切るとブーケを助手席に置いてすぐにエンジンをかけた。
 とりあえず桐生市行きは明日やな。
 明後日はうまい具合に土曜日である。
 一泊して桐生市内歩いてみよ。
 歴史的建造物がいろいろあるみたいやし。
 初めて訪れる街には事情は置いといて楽しみなところもある。
 それにギャラリーに行けば何かわかるかもしれへんし、花屋の壁にあった絵もええ雰囲気やったし、奈美の絵は見てみたい。
 講義が終わってからでも桐生市まで車で二時間、ギャラリーが閉まる前に行けるやろ。
 家族にうまい具合に会えたら、T美大時代の奈美さんの話も聞き出せるかもしれん。
 ハンドルを握りながら、千雪は遠足の前のような高揚感を感じていた。
「何だ、その花は」
 千雪がブーケを抱えて部屋に入ると、キッチンから京助が顔を覗かせた。
「きれいやったから」
「はあ?」
 リビングまでくると照り焼きのいい香りが千雪の鼻を擽った。
「せや、花瓶て、どこぞにあった?」
 せっかくの花を生けるものがあったかと、千雪ははたと気づく。
「確か、ここに引っ越した時、小夜子が花を飾ってたぞ」
 京助はキッチンの棚の扉を順に開いていく。
「あった」
 京助が差し出した大きめのフラワーベースは波模様の白磁で、千雪が持ってきたブーケに申し合わせたようによく合った。
「ちょうどええやん、この花瓶」
 おしゃべりをしながら大石が作ったブーケは、色といい花の形といい品のいい仕上がりになっていた。
「たまには部屋に花があってもええなあ」
 千雪はテーブルに飾ったブーケを見ながら呟いた。
 花瓶は結構値の張るマイセンだが、そんなことを言っても千雪には意味がないだろうと、京助は一人肩を竦める。
「できたぞ」
 千雪がテーブルに並べた器に、京助はフライパンから出来立ての照り焼きチキンを盛りつけた。
「明日桐生に行ってくる」
 さすがに京助の料理は文句のつけようがない、などと思いつつ、チキンを平らげた千雪は一応言っておこうと口を開いた。
「桐生? それも取材か?」
 怪訝そうに京助は聞いた。
「まあ、そう。それに、知り合いの個展やっとるし、見てこよう思て」
「ふーん。連絡入れろよ」
「わかった」
 千雪は京助がうるさく言わないことにほっとして、ワインを飲んだ。
 
 

 


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