「素直でよろしい。子守唄でも歌ってやろうか?」
「いるか!」
毛布を被ってしまった悠を見て藤堂は笑う。
と、藤堂のポケットで携帯が鳴った。
「何だ、達也」
『長谷川美香がお前をお名指しなんだよ。あの女、勝手なことばっか言いやがって。ボヌールって六本木のクラブ。すぐ行けよ』
「…おい…」
呼びかけようとした時には既に切れていた。
「全く、人使いが粗いんだからな。仕方ない、ちょっと出てくるが、おりこうにして休むんだぞ、悠ちゃん」
「ちゃんとか、言うなってっだろ!」
悠は毛布から顔を出して言い返す。
「はは、アイちゃん、この坊やがおいたしないように見張っててくれ。あ、お腹すいたら、冷蔵庫に色々入っているから食べていいよ」
アイちゃんは自分用のベッドから出てきてお座りすると、キュワン、とひと声。
藤堂が出て行くと、急に部屋は静まり返った。
「テレビもないのかよ……この部屋は」
しっかし、変なおっさん。
やなやつ、って思ってたのに。
だけど温かかった。人って、あったかいんだな。
さっきどさくさまぎれに抱き込まれた時、その温かさが何だか懐かしかった。
クウン、とボーダーコリーがいつの間にか傍にきて座り、まるい目でじっと悠を見上げている。
主人の言いつけを忠実に守ろうとでもいうように。
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