「わかったよ、寝るからさ」
悠は手を伸ばして、頭を撫でてやる。
アイちゃんも温かい。
生きてるって温かいってことなんだ。
そんなこと、忘れていた気がするな。
自覚がなかったが、少し熱が上がって頭が朦朧としていたらしい。
目を閉じるとすぐ悠は夢の中に落ちていった。
既に何日経ったろう、河崎がメインで動いている東京自動車の新車の宣伝プロジェクトに借り出され、今日もスタジオで藤堂は時間が過ぎるのをイライラともてあましていた。
「よかったよー、美香ちゃん」
なんて口では言いながら、頭の中では悠のことが気になって仕方がない。
イメージキャラクターに起用された女優の長谷川美香は、デビュー当時、まだ藤堂たちが英報堂にいた頃に一緒に仕事をして以来、マメで面倒見のいい藤堂に懐いていた。
今回も、共演する俳優が嫌だとか何とかごねまくりで、その度ごとに、藤堂ちゃーん、とくる。
美香が恋人というくくりでは藤堂を見ようとしないのがミソであるが。
このままだとヨーロッパロケにまで借り出されそうな雲行きだ。
冗談じゃないぞ。
あの夜、悠をベッドに寝かしつけて六本木にかけつけてから部屋に戻ったのは翌日の朝だった。
とっくに悠は部屋を出たあとで、ジャケットを持っていったらしいのに、ちょっとほっとした。
「悠ちゃんは、ちゃんと食べていったのかな、アイちゃん」
冷蔵庫の中のチーズやサンドイッチはなくなっていた。
「まさか、またバイトなんかやっていないだろうな」
ついさっき届けられたできたてほやほやのポスターや案内状を見ながら藤堂は呟いた。
back next top Novels