サンタもたまには恋をする 58

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「よ、ハル」
 午後には高津がまたやってきて、飯倉が来るかもしれないという情報をくれた。
「何でわざわざ来るんだよ。ちぇ、どんだけボロクソにご批評してくださるか、楽しみじゃねーか、飯倉のやつ」
 あくまでも好戦的な台詞を吐く悠に、高津はしょうがねぇなと呟く。
「しっかし、すげーじゃん、ビシバシ売れて、下のフロアの、ほら、ビルの屋上で俺が写真撮った、あれ売れたんだ?」
「ビシバシ……ってな……」
「あん時お前、ビルの端っこに立ってたから、自殺志願者と間違われて通報されて、逃げるのに一苦労だったもんなー。俺の苦労も報われたってことか」
「だからここの顧客だからってだけだ。じゃなきゃ、だれがこんな味気ない絵買うかよ」
 絵が売れたこと自体、悠はあまり納得できないでいた。
 自分の実力とは違ったところで話が動いたという気がして、違和感が拭えないのだ。
「いいじゃんか、売れれば。そういや、入り口のとこにある二〇号のバラも売れてたぜ。あれ、悦子がモチーフに使ってたやつだろ? あんなリアルなだけのドライフラワーが」
 高津の言葉に、悠は苦笑する。
 ここにある絵の中で、ひとつだけセンチメンタルな絵だ。
 あれが、あの時のバラだなんて、藤堂は気づかなかったろうな。
 思いもよらなかったのは村松幸蔵がギャラリーに現れたことだ。
「なかなか成長したな」
「ありがとうございます」
 一通り絵を見て回ったあと、声をかけた幸蔵に、悠は型どおりの礼を言った。

 


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