ロケットの蓋を開けると、そこには工藤の亡き母親の写真が入っている。
ルビーが本物かどうかなどより、母親の写真が入ったロケットなど工藤家の思い出の品であることが重要だろうが、良太としては、そんな高価なものを自分が預かっていることが何やら背中がむずがゆくなってしまうのだ。
リュックから紫の袱紗に包まれたペンダントの入った箱を取り出すと、良太は千雪の部屋のドアをノックした。
「開いてるで」
良太がドアを開けると、千雪はシルビーの足をタオルで拭いていた。
シルビーはハスキーで割と大き目なので、去年も千雪は一人部屋だった。
というのは建前で、実は千雪は中学の時のトラウマから温泉がダメで、そのせいで一人で使っているというのが理由らしい。
ん? でも一人部屋とは関係ないのでは?
首を傾げた良太だが、「えっと、これなんですけど」ととりあえず袱紗を開いて箱からペンダントを取り出した。
「きれいいうことくらいしか俺にはわからんけど、預かっとく」
京助に直接渡してもよかったのだが、京助は忙しそうだし、良太にしてみれば千雪の方が話しやすかった。
「まあ、話聞く限り、ホンモノやと思うけどな」
千雪は箱に戻したペンダントを眺めながら言った。
「はあ、ホンモノだったらどうしよう、これ」
良太は思わず眉を顰める。
「ホンモノやろうが良太が預かるしかないんなら、元の場所に戻しとけばええんちゃう?」
「元の場所って、俺の部屋のデスクの引き出しですよ? ええ、最新式の金庫とか買わなけりゃダメかも」
はああ、と良太は大きく溜息をつく。
「そんなんせんかてええて。平さんかて、いっこ二百万からするツボにいつも花生けてはるし、普通につこてたら、価値があるとか何とか、誰も考えへんて」
「二百万?! え、あの玄関にいつも置いてるやつ?」
頓狂な声を上げて良太は驚いた。
「いや、俺がこんな感じのツボや言うたら、京助が古伊万里やったらそのくらいなもんやろて」
「セレブの感覚持ち合わせてないから俺。ゴクゴク一般的な小市民ですから」
「考え方だけやろ? 価値を値段でつけたりするよって、人間が、変に意識せなあかんみたいなことになるんや」
「はあ」
まあ、そうなのだろうけど。
良太はとりあえず、自分をそう納得させて千雪に預けて部屋を辞した。
尻尾を振りながら良太の傍らに来たシルビーをずっと撫でていたので、良太が部屋を出る時シルビーは名残惜し気な顔をした。
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