花さそう29

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「総菜、まだ仰山あるなあ」
 佐々木は沢村がテーブルにつくのを確認しつつ、キッチンで片づけを手伝っていた。
 サラダやハム類、スープ、それともともとたくさん煮た大根の煮物。
「サラダは和え物にして、野菜はちょっと炒めて昼に誰でも食べられるようにまた出しておく」
 佐々木の言葉を聞きつけて京助が言った。
 京助は残ったご飯でおにぎりを作っていた。
「パンは籠に入れて、軽くラップかぶせておけばいい」
 研二は鍋やフライパンなど調理用具を洗いながら、「ほんま、至れり尽くせりやなあ」と笑う。
「こういうのは得意なヤツが引き受けて、存分に遊べればそれでいいさ」
「なるほど、ええなあ、それ」
 女たらしの御曹司だのとマスコミに騒がれていた京助だが、実際のところは知る人ぞ知るだ、と佐々木も笑った。
「えっと、とりあえず四時にはここに集合してください。プレゼントとかはお店の方に運び入れてあります」
 朝食が終わった頃、リビングに集まった青山プロダクションの面々の前で良太は声を張り上げていた。
「四時半までには店内に入って下さい。駐車場は広いので心配ありません。今夜は貸し切りにしてもらいましたし」
 会社の関係者はアスカと秋山、森村、小笠原、それに工藤と良太だけだが、家政婦の杉田や千雪も参加することになっており、さらに美亜や藤堂に加えて沢村と佐々木、それに直子が昨日のうちに急遽参加を申し出た。
 前回のスキー合宿の際、一度夕食を作ってくれた平造には彼らも面識があり、プレゼントも事前に用意してくれていた。
 カンパネッラのオーナーは、せっかくのお祝いだから人数も多い方がいいと、快く五名分追加してくれた。
「俺が平さんを迎えに行って、五時には店に着く予定です」
「サプライズでしょ? 何て言って平さん連れていくの?」
 アスカが良太に聞いた。
「下手なウソつくのもなので、率直に工藤さんが誕生日に食事をしようって言ってるからって」
「フーン、まあ、そうね」
 アスカは頷いた。
「演出は派手にはしないつもりですが、平造さんを出迎えたら、出席される方は直に平さんにプレゼントを渡してください。よろしくお願いします」
 それから良太は傍らで腕組みしている工藤に、「社長から乾杯のひと言は必ずお願いしますね」と念を押した。
「ああ、わかったわかった」
 食事会のことは良太にすべて任せて、工藤は一切口を挟んでいない。
 ひと言の前にちょっとしたサプライズがあるとは聞いていたが、それは社員にも内緒にしているらしい。
 この合宿で工藤は極力、良太にああしろこうしろは言わないように心掛けている。
 何より、一切仕事を離れて、良太のやることを見守るつもりでいた。

 


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