帰りは良太が運転したが、スキー用具を積み込む際、牧のスキーがかなり年季が入っているのを見て取った良太は、少しでも牧が売れるようになればいいがと思う。
日比野が推すくらいだから、牧の舞台での演技力はそれ相応のものがあるのだろう。
ふと、人気俳優となった本谷和正のことを思い出した。
業界とは関係ない企業のサラリーマンだった本谷は、たまたま営業に行った先の芸能プロダクションでその容姿が目に留まりスカウトされたという。
演技もろくにできない人気だけが先走った新人、とそのプロダクションが推すドラマの仕事を受けた工藤も最初はこき下ろしていたが、打たれ強かった本谷は、下手なりにドラマに出るたびにスキルアップして化けた。
俳優になろうなどと思ってもみなかった本谷が活躍して、牧のように演技力があるのにチョイ役からなかなかキャリアアップできないでいる俳優がわんさかいる。
何だか不公平だと思う良太だが、やはり運とかタイミングとかが左右するのだろうかと改めて痛感する。
何かできることはないかと思うものの、良太の力ではたかが知れている。
そのうち牧に合いそうな役があればとは思うのだが。
二時十分ほど前に綾小路の別荘に着くと、既にリビングには何人か集まっていた。
「すみません、ちょっと着替えてきます」
「慌てなくていいよ」
理香や彩佳、それに速水と昔から仲間だったかのように打ち解けている宇都宮が良太ににっこり笑って手を振った。
「もう締め切ったかな? 俺も一緒していい?」
今朝方打ち合わせの後で宇都宮が良太を捕まえて言った。
「人数制限はありませんよ、大丈夫です」
良太の答えに宇都宮は笑っていた。
その良太は部屋に戻るとざっとシャワーを浴びて食事会用のスーツに着替え、ダウンジャケットを羽織って階下に降りて行った。
佐々木と沢村もすぐにやってきたが、工藤や森村やまだ何人かは来ていない。
「あ、秋山さん、俺、先に行って平さんと一緒に待ってますから、あとお願いします」
ちょうどアスカと一緒に降りてきた秋山にそう言うと、良太は飛び出していった。
「良太、今日は忙しいな」
秋山が呟いた。
「佐々木さん、十三人くらいだから、車、三台くらいで乗り合わせて行きますか?」
「そうですね」
秋山が聞くと佐々木が頷いた。
「俺らの車、でかいから六、七人は乗れますよ」
加藤が申し出た。
「それやったら沢村の車に五人は乗れるし」
「うちの車に四人は乗れます」
佐々木と秋山が交互に言った。
「じゃあ、その三台で行きましょう」
「あれ、レクサスLS500エグゼクティブ、秋山さんの車なんですか? すごい高級車ですよね」
加藤が声高に聞いた。
「社用車ですよ。主にアスカさん送迎用」
「なるほどお」
加藤が頷いた。
「あ、すみません、牧も行きたいって言うんですが」
慌てて降りてきた森村が言った。
牧はその後ろからのっそりと降りてきた。
「ああ、OK!」
食事会用のスーツに着替えた工藤が現れてすぐ、藤堂の後ろから悠が階段を駆け下りてきた。
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