「怪我しない程度にやれよ」
リフトを降りると、工藤は良太にそう言いおいて、シュバっとあっという間に滑り降りた。
「くっそ!」
ああ、そうだよな、いっつも死なない程度に動けってやつだろ?
ったく、労わりも何もありゃしない。
良太は基本に忠実に、コブコブを乗り切って滑り降りる。
森村は牧に一言二言教わっただけで、良太を追い越して先に降りて行く。
「良太さん、急がなくていいですからね」
牧が気を利かせて良太と並んで降りて行く。
「牧さん、いいですよ、先行ってください」
「大丈夫です」
あくまでもきれいにゆっくり滑り降りる牧は、手本のようなフォームできれいに滑る。
牧について滑るうち、良太も何となくコツを掴んで下まで滑り降りた。
いくつかのコースを滑っているうち、ボーダーが数人傍らを滑り降りていった。
「あれ、直ちゃんと悠くんじゃないか?」
どうやら彼らも近場でこのスキー場に来ていたようだ。
しばらく滑ったところで、工藤が携帯でそろそろ降りるぞと言ってきたので、時間を見ると、既に三時半を過ぎている。
上の方はもう雪雲が覆いはじめていた。
牧と森村に、休憩するロッジを伝えると、良太は一気に下まで滑り降りた。
ロッジの前のスキー用スタンドにスキーを立て掛けていると、工藤が間もなく滑り降りてきた。
「無事に滑れたか?」
「怪我なんかしてませんよ」
工藤はマスクをはずしてニヤニヤ笑った。
するとすぐ近くで綺麗なフォームでスキーを止めた男がマスクとサングラスを外した。
「秋山さんもここだったんだ」
「さっき工藤さんや良太ちゃんみかけて追いかけてきた」
「ってことは、アスカさんも?」
「ああ、京助さんにつかまって扱かれてたぞ」
「京助さんも?」
あらら、気の毒に、と良太は苦笑いする。
「理香さんらのグループも見かけたし、宇都宮さんが三田村さんらと一緒にいたな、ずっと上の方で」
スキーを立て掛けると秋山はグローブを外した。
「やっぱ近場だから、ここにみんな集中してるんだ」
「そうだね」
その時、ロッジから出てきた女性たちの一人が良太らの方を見た。
「秋山くん?」
良太は秋山と一緒に振り返った。
「久しぶり、地元に帰ってきた………、わけじゃないのね」
女性は親し気に秋山に近づいた。
「佐藤さん」
秋山は表情を変えなかったが、声が固かった。
どうやら地元の知り合いらしいと、良太は二人を見た。
「同僚たちと休暇で来てる」
「そうなんだ。あ、秋山くんのクラスメイトです」
佐藤と呼ばれた女性は良太を見てぺこりと頭を下げた。
「会社の同僚の広瀬です。と、うちの社長の工藤です」
良太は秋山の後ろに立っている工藤を紹介した。
「あ、どうも……」
佐藤は工藤にも頭を下げた。
「先に行ってるぞ」
工藤は良太にも目で合図してロッジに向かう。
「やっぱり、家には帰ってないんだ?」
佐藤が言った。
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