「町中知ってるんじゃないのか? オヤジが俺を勘当したことなんか」
「だけどもう結構時間が経ってるんだし、お父さんも許してくれるんじゃないの?」
「許すって、俺は何も許されなくちゃならないようなことをした覚えはないし、あの人たちとはむしろこちらから縁を切った。地元にも戻るつもりはないよ。仕事も順調だし」
「秋山くん……」
背中を向けていたが、良太にもそんな会話が聞こえてきた。
「秋山さーん! きゃああっつ!」
その時、叫び声とともに上からスキーが突進してきた。
良太も思わず振り返ると、案の定アスカがもう少しでスキースタンドに突っ込むところを、秋山がアスカの腰に素早く腕を伸ばして食い止めた。
「危険なことはやめて下さい! 心臓がとまるかと思いましたよ!」
大きく息をついて、秋山が怒鳴る。
「だって、スキーが止まらなくなっちゃったんだってば!」
言い訳も強気なアスカの弁だ。
すぐにスキーヤーが二人ほどアスカを追いかけるようにして滑り降りると、シュバっと止まる。
「ったく、お前は何度同じことをしたら気が済むんだ!」
怒鳴りつけた声は京助だった。
「大丈夫だった? アスカさん」
スキーを外して立て掛けながら声を掛けたのは宇都宮だ。
「秋山さんが見えたから止まろうとしたんだけど、スキーが勝手に滑ったのよ!」
アスカもマスクとサングラスを取った。
「ったく、天性の運動音痴だな!」
「うるさいわよ、京助! はあ、生き返った。マスクって苦しいからいや」
「焼けるとこまるでしょう」
京助がまた文句を言う前に、宇都宮がやんわり窘めた。
「ま、確かに、煩わしくはあるけどね」
やがて数人が次々と滑り降りてきた。
「あれ、何かスキー合宿軍団勢揃いやんか」
千雪がマスクを外してアスカを見た。
「アスカさん、ぶつかるかと思たわ。大丈夫ですか? 秋山さん」
「俺は平気」
こうなったら秋山も苦笑いしか出てこない。
「秋山さん、大丈夫でした?」
「上から見ててもぶつかるかと思ってひやひやしたあ!」
あとからやってきた牧と森村も交互に言った。
「さすが、秋山さん。アスカさんのことすんごいうまく止めて」
良太が代わりに説明した。
「やめてくださいよね、ほんと。こんなとこで怪我とかされたら」
「ちょっと、何よ、良太! その言い草、まるで工藤さん!」
「それもやめてくださいって言ってるじゃないですか!」
一層ムキになって言い返す良太を、千雪がポンポンと肩を叩いてロッジに入って行く。
「ちょっとやり過ぎて、脚が動かなかったんでしょう。さあ、行きますよ」
「ちょっとまってよ。靴が外れない……」
秋山はアスカのスキーを外すのを手伝ってから、一緒にロッジに入って行った。
良太も後を追おうとして、傍らにまだ佐藤が立っているのに気づいた。
「……あの……、ひょっとして女優の中川アスカ? と宇都宮俊治…とか?」
聞かれて違うとも言えず、「はい、中川はうちの会社所属で、宇都宮さんは知り合いなので」と当たり障りなく良太は答えた。
「じゃあ、皆さん、俳優とか?」
「いえ、社員もいます。秋山さんはマネジメントをやってます」
「そう……なんですか。でも、彼、前より生き生きしてるみたい」
佐藤が笑った。
「秋山さんはうちの会社の要ですからね」
良太も笑みを返した。
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