あちこちで、「お前と一緒だ」とか、「よかった、よろしくね」などという声が聞こえる。
いい年をした連中が、ったく、中学の席替えレベルだな。
工藤は周りを斜に見ていたが、「え、良太ちゃん、F? 俺と一緒だ」という声に工藤は眉を顰めた。
宇都宮だった。
宇都宮と良太が一緒の部屋だと?
途端、工藤は心穏やかとは言い難い感情に拳を握る。
「あ、よろしくお願いしますぅ」
嬉し気に言う良太も良太だ。
「工藤さん、遊びですから、遊び。いきり立たないでくださいよ」
いつの間に傍に来ていたのか、秋山が囁いた。
工藤は険しい目を抑えることなく、それでも文句を言うのをやめた。
その時、エントランスが賑わいで新しい一行が到着したらしかった。
「藤堂さん、直ちゃん! お疲れ様です」
一行が入ってくると、良太が目ざとく声を掛けた。
広告代理店プラグインの藤堂義行、西口浩輔、佐々木オフィスの池山直子、それにギャラリー銀河で三人展をやっていた一人、五十嵐悠の四人が部屋に入ってきた。
「よかった! 夕食、間に合わないかと思っちゃった!」
直子が言うと、「仕事、なかなか終わらなくてゴメン」と浩輔がボソリと言い訳する。
「コースケちゃんが謝ることないわよ。クライアントの都合なんだから」
直子は黒のワンピースにフェイクファーのコート、それにピンヒールのブーツといういつもの出で立ちだ。
「寒くない?」
「寒いとか言ってたら、お洒落なんかできないわよ」
心配顔の良太に、直子が言い返す。
「佐々木さんらは?」
良太はこそっと直子に聞いた。
「うーん、夕食には間に合うように来るって言ってたけど」
それを聞くと、良太は、沢村のやつ! と佐々木の交際相手である沢村に心の中で文句を言う。
プロ野球関西タイガースの四番を打つ人気スラッガー沢村智弘は、ピッチャーをやっていた良太のキッズリーグからのライバルで、今現在も腐れ縁というやつで、良太は沢村にマネジメントを押し付けられている。
その沢村が一昨年の秋、稀代のクリエイター佐々木周平と付き合っていることを知った時はさすがに良太も驚いた。
昨年のスキー合宿に、無理やり現れて佐々木とのことをぶっちゃけたこともあり、良太はとにかく沢村に、佐々木さんの迷惑にならないようにしろとは煩く言っておいたから、今回はちょっとおとなしくしていてもらいたいと思うのだが。
既に滞在している者と同室になったりで、交友関係を広げるにはこのやり方もいいかも知れないが、沢村は佐々木が誰と同室になるかをえらく気にしていた。
「普通に知り合いと同室でいいだろうが」
ブツクサ文句を言う工藤に、「交友関係や見聞を広げる目的もあるでしょう」と良太が言った。
「フン、今さら見聞を広げてどうする」
さらに工藤の虫の居所は悪化するばかりだ。
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