花さそう65

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 工藤さん、お疲れ様、と最後に声を掛けると、アスカは助手席に乗り込んだ。
 仕事の時は後部座席に乗るのだが、話をしたい時だというが、たまに助手席に乗っている。
 秋山の運転するレクサスを見送ると、良太は慌てて残っている紙袋などを手に上がって行ったエレベーターの前で待った。
「お疲れ様です。留守中何かありましたか?」
 その間に警備員に尋ねたが、警備員は平穏無事でしたと笑って答えた。
 早いとこ、猫たちの顔を見たいところだったが、とりあえず二階で降りた良太は、オフィスを開けて鈴木さんらへのお土産を中に入れた。
 エレベーターで七階に上がると、工藤は良太のスキー用具なども一緒に自分の部屋に入れたらしい。
 ドアを開けるなり、ナーーーーーーンと猫たちが駆け寄ってくる。
 いつもより泣き声がうるさいのは、留守にしていた良太に怒っているのかも知れない。
 スリスリゴロゴロが激しい。
 ひとしきりネコたちを撫でてから器を取り替えて、まずご飯をやった。
 水は自動給水器で常に新しい水が出てくるのだが、ちゃんと器に水を入れて猫たちの前に置く。
 はあ、と一息ついて時計を見ると、九時半を過ぎていた。
「おい、前田の店に行くぞ」
 いきなりドアが開いて工藤がのたまった。
 カギを掛ける間もなくネコにかかり切りだったらしい。
「あ、はい」
 着替えをする必要もないとそのまま工藤の後についてドアを出る。
 その時、良太は何かしら違和感を感じたのだが、ネコたちをもふるのに夢中でその時はそれが何なのかわからなかった。
「それで吉川はどうした?」
 工藤の手の中でグラスの氷がカラリと音を立てた。
 オーナーでありバーテンダーの前田の店「オールドマン」は、工藤にとって特別の安らぎを得られる場所だ。
 良太はほんのたまに一人で来ることもあるが、工藤と一緒にこうして肩を並べて飲むのが一番好きだ。
 ただし、工藤の安らぎの場を壊すようなことはしたくないと、常々思っている。
 思っているのだが、飲み過ぎて潰れたのことも何度かあるため、次は絶対そうならないぞ、という決意だけはある。
「向こうを出る前にお礼かたがた店に行ってちょっと話したんですけど、やっぱり知る人ぞ知るを崩したくないって言われちゃいました。全国ネットで流れて、物見高い客層に来られるのが嫌だそうです。とりあえず一考してみてほしいとはお願いしましたが」
 嫌だと言われて、はいそうですか、と引き下がるような真似はしないが、吉川の店に対する思いというのも重要なわけで、強要することもできない。
 その時工藤はふと、良太が入社したばかりの頃、やたら千雪が新入社員に逃げられないようにと危惧していたことを思い出して笑う。
「何ですか?」
 また鼻で笑われて良太はちょっと工藤を睨む。

 


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