「こっちのことだ」
あの頃、できませんでしたと戻ってきた良太を怒鳴りつけたが、良太は逃げずにくらいついてやがて、できました、という答えを持ってきた。
以来、できませんでした、という答えは良太からあまり聞かなくなった気がする。
まあ、千雪の言うような猛者ではなく痩せこけたひょっこだったものの、昭和のオヤジのパワハラに言い返す気概だけは持っていた。
というより、こいつは怖いものナシだから逆にこっちにや汗をかかせやがる。
「そういえば、宇都宮さんとずっと話してましたけど、何かドラマ進行にもんだいでも?」
良太はホットラムを飲みながら尋ねた。
「宇都宮に思うところがあったら遠慮せず言えと言ったんだ。ここのところドラマのデキはどれもこれも今一つだ。溝田や坂口さんともちょくちょく話してはいるが、座長の宇都宮の意見は重要だからな」
「宇都宮さんからいい意見出ましたか?」
「いろいろな。片っ端から試してみろって言っておいた。小笠原にもお前から聞いとけ」
「あ、はい」
「せっかく坂口さん肝いりのバディアクションものなんだ、ちんたら面白くもない絵にしないようにクールに行け」
「わかりました」
スポンサーとの取引でも視聴率は世帯から個人へとシフトしつつある。
ドラマはテレビと並行して配信システムも利用されている。
「『今ひとたびの』はどうだ?」
二杯目のバカルディのグラスを手に工藤は聞いた。
「明後日から撮影再開です。対談の日程は竹野さんに確認し次第早々に決定します」
「千雪を逃がさないようにしろよ」
「わかってます」
合宿中に打診した時は千雪は嫌だとごねていたから、良太が連れて行かないとバックレる可能性もある。
また千雪に、工藤に似てきたとか何とか茶化されそうだと良太はちょっと苦笑いする。
「でも、スキー楽しかった。工藤さんもたまにはよかったでしょ? でもやっぱ京助さんにはすごく世話になってお土産程度でいいのかなって気もするんですけど」
「さっき紫紀さんから連絡が入ったから、世話になった礼を言ったが」
工藤はフンっと笑う。
「京助が好きでやってることだし、あいつは礼を求めたりしないから気にするなとさ」
「はあ、ほんと、何か京助さん、見かけによらず世話好きですよね」
良太は感心したように頷いた。
最初に出逢った頃は、良太にはメチャ上から目線の嫌なヤツだったし、なかなかその印象が変わることはなかったが、千雪とどっちこっちの口の悪さでも結構中身は情に熱い人間だということがわかってきた。
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