汐留にあるスタジオを出ると、森村は環二通りから六本木通りへとすっかり慣れたショートワゴンのハンドルを切った。
「今日は豪勢でしたね~。お陰で撮影も着々と進んだし」
真夜中を超えるだろうと思われた撮影は何と、十一時を過ぎるか過ぎないかのところで終わったのだ。
坂口や溝田監督はスタッフに声を掛けてさっさとタクシーで飲みに向かい、スタッフもちゃっちゃか片づけを進めていた。
「宇都宮さんて、ほんと太っ腹ですよね。まさか、寿司職人ごと寿司バーを差し入れなんて」
最近覚えたらしい太っ腹という単語を、森村は気に入ったらしくよく使う。
たまに、ちょっと意味が違いそうなこともあるが、それもご愛敬だ。
言葉自体は滑らかな日本語なので、日本人としか思われないが、森村は日系三世で国籍はアメリカにある。
今日は夕食を差し入れするからと宇都宮があらかじめ良太に宣言していたが、森村の言う通り、スタジオに寿司職人を二人程呼んで、寿司バーを展開したのだ。
撮影中にもひたすら寿司を握ってくれていたお陰で、滞りなく特上の寿司が俳優陣のみならずスタッフにも行き渡った。
ネタがあるだけ早い者勝ちで握ってくれるというので、皆が色めき立ったが、案外お行儀よく順番待ちをしていた。
遠慮していた良太も、最後には宇都宮が気を利かせて握ってもらったウニとイクラにありついた。
「ほんと、寿司って最強ですよね」
ご機嫌なのは森村だけではない、今日はみんながご機嫌で撮影を終えていた。
「小笠原さんもまた何かあんな形で差し入れしたらいいのに」
「でも、寿司職人さんとか、しかも老舗の、宇都宮さんクラスの大物俳優さんだからできる話だよ」
森村は、なるほど、と頷いた。
「差し入れ対抗戦みたいになっちゃいますもんね」
「華々しいことやらなくても、コンスタントに、お弁当やスイーツを差し入れとくのがいいと思うけど」
すると森村はフフフっと思い出し笑いをする。
「何だよ?」
「宇都宮さんって、やっぱ良太さんに愛を感じるなあ、って」
「はあ?」
「だって、ほら、ウニとイクラ、良太さんに渡してたじゃないですか」
森村はウニとイクラを食べそこなったことをまだ根に持っているらしい。
「宇都宮さんは気配りの人なんだよ。俺が遠慮してたから」
良太はあたりさわりのない言葉を探した。
宇都宮がまだ自分に好意を持ってくれているのなどと思うのは自意識過剰だとは思うのだが。
「うーん、まあ、それはあるかと思うけど」
森村は含みのありそうな言葉を切った。
やがて青山プロダクションのビルが見えてきた頃、赤信号で車が停まった。
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