春立つ風に102

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 工藤に見つからないように柱の陰にさり気に隠れながら、良太は二人のようすを窺った。
 今まで見たことがない女性だ。
 最近の知り合いではないような気がした。
 良太は息をひそめて二人を見つめた。
 やっぱ、あれか、昔の女とか?
 さっきの、工藤の言葉、「千雪のところだな」とか俺に確認したのって………。
 特別意味をなさなかったはずの言葉が、妙に引っ掛かってくる。
 例え四十の坂を越えたとはいえ、バリバリ仕事をこなす、鬼と知らなければぱっと見、女が放っておかないだろう男だ。
 昔の女がまた近づいてくることだっていくらもありそうだ。
 そんなことは百も承知のはずだと思う良太だが、気にせず通り過ぎることなどできなかった。
 ややあって二人が立ち上がり、こちらの方を向いた。
 良太は咄嗟に工藤の視界から逃れて柱の真後ろに立った。
 すると二人は駐車場へ降りるエレベーターへと向かう。
 え………。
 こんな時間からどこ行くんだよっ!
 二人がエレベーターに乗り、駐車場のある地下へ降りていくのを見届けると、良太はすぐ横の階段を駆け下りた。
 駐車場へのドアをそっと開けると、エレベーターから降りた工藤とその女性が肩を並べて歩いていくのが見えた。
 良太は車の陰に身を潜めていると、二人はレクサスの前で立ちどまり、女性がロックを解除したらしく、ライトが点滅した。
 冷え冷えとした空気がこっそりようすを窺っている良太の一層身に染みる。
 車の前で女性と工藤は向かい合って何かまた話していたが、いきなり女性が工藤の胸に抱きついた。
 工藤の手が女性の肩にかかるのが見えた時、良太は踵を返した。
 それでも工藤に見つからないようにこそっと区画を示す柱の陰に隠れながら、辻の車まで何とか辿り着いた。
「何や、戻ってきたんかいな」
 後部座席のドアを開けると、千雪が笑いながら言った。
「書類渡してきたんか?」
「……いえ、電話中だったみたいで、やっぱまたにします」
 良太は何とかそう答えた。
 ちょうど、『今ひとたびの』の監督山根から近日中に京都でロケの件で良太に電話が入った。
 珍しく千雪からの要望だし、久保田も竹野のスケジュールが何とかなれば合わせるという。
「山根監督と久保田さん、OKなんで、竹野さんにラインしてみます」
 撮影スタッフは最小限でも数名、動けるか打診してあるので、あとは竹野次第ということになる。
「ほな、車出すで」
 辻がエンジンをかけた。
 昼間の勢いから考えれば、すぐにも竹野に電話をしているところだろうが、女性と抱き合う工藤を見てしまった良太は、何となく行動が緩慢になっていた。
 ラインで竹野にロケの説明とスケジュールが空くかどうかと打ち込むと、良太は座席にもたれてふーっと息をついた。

 


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