「柏木珠紀は確か工藤さんが在学中の何年か後輩、俺が今いる宮島研究室の卒業生で当時のミスT大にもなっとるらしい」
「経歴は知ってましたけど、ミスT大って確かに美人」
千雪が説明すると、森村が思い出すようにニッと笑う。
「待て待て、それが夕べまた来とったて? それ、把握しとらん」
千雪が森村を睨み付ける。
「え? だって、夕べ、良太さんも見てたでしょ?」
森村の発言は千雪にとって意外だった。
「夕べ? 聞いてないで」
咄嗟に良太が話さなかったのだと、千雪は察した。
「え、いや、工藤さんと柏木さん、しばらくホテルのラウンジで話して、それから駐車場に降りて行ったんですけど、良太さんも何か後をつけてた感じで」
「それで?」
怖い顔で千雪に覗き込まれ、森村はちょっと後ずさりながら続けた。
「いや、だから、あの二人、車の横でいきなり抱き合ったりしてるから、先輩後輩ってより、昔の女とかかなと………」
「ボスが? あの、清楚、そうな女と?」
今度は匠が念を押すように聞いた。
「はい、こう、女性が工藤さんにヒシって感じで……、良太さんもこそっと見てたから、てっきり皆さんも知ってるもんだと」
「良太が見とったて?」
怖い顔のまま千雪が森村を睨み付ける。
それから千雪は髪を掻きむしって「それでか」と頷いた。
「え、何ですか? 何か俺の知らない情報あるんですか? それでって何?」
森村が千雪に問いただす。
それを見て千雪と匠は顔を見合わせた。
こいつ、まさか、工藤さんと良太のこと知らんのかいな。
上司は知っとるやろに。
千雪は心の中で逡巡し、「いや、工藤さんに用があったけど、良太が会えなかったて言うて戻ってきたよってな」と嘘のないところを口にする。
言わん方がええ思て、良太には柏木のことは話してないのんがアダになったかな。
いや、話そうが話すまいが、そんなとこ見よったら、カッとなるわな。
「やっぱ、あの二人昔関係あったんですか? 千雪さん知ってる?」
森村が千雪に突っ込む。
「さすがに俺の在学する前の話やから、小田さんあたりなら知ったはるかもやけど」
工藤さん、在学中他の女に手出すとかあれへんかった思うけどな。
亡くなった桜木ちゆきさんを長いこと引き摺ってたわけやし。
まあ、わかれへんけどな。
千雪は首を傾げる。
にしても、良太や。
どない言うて説明しよ。
やがて撮影が始まったが、千雪はしばらくその場で思案していた。
匠の演技に腕組みをして顔を向けていた工藤は、ふとそんな千雪を訝し気に見やった。
千雪のやつ、何を目論んでやがる。
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