春立つ風に105

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 貴船神社でのロケ隊は、千雪から『やさか』本店のわらび餅を差し入れがあったので、午後三時になるかならないかにお茶の時間になった。
 森村がかいがいしく俳優陣からスタッフから、温かいペットボトルのお茶とわらび餅を配って歩く。
 一つ一つカップに入っているので、食べやすくなっている。
 小杉や谷川も一人で大わらわの森村を手伝って、全員に行きわたったところで、腰を下ろした。
 千雪は匠と一緒にベンチに腰を下ろし、わらび餅を頬張りながらロケ隊を見渡した。
「『やさか』本店のわらび餅、美味しい」
 ぺろりと平らげてからダウンコートの匠はボソリと言った。
「熱いお茶が身ぃに染みるな」
 千雪はコートの襟を掻き寄せる。
「冬にこないなとこでよう撮影とかする気になるわ」
「今日は特に寒い」
 朝には森村が携帯カイロをみんなに配っていた。
 比較的年齢が高い人々はいくつか焚いているストーブの傍に陣取っている。
 一人、セーターにダウンベストの森村だけが元気に動き回っている。
「やっぱモリー、鍛え方の違いか」
 笑顔でたったかこっちにやってくる森村を見ながら匠が言った。
「美味かったあ! 俺、こんなうまいお菓子食べたの初めて」
 森村は千雪と匠の前に立って、感激を露わにした。
「いつ日本に来たん?」
「去年です。ちょくちょく東京に寄ってはいましたけど、落ち着いたのは夏頃?」
 千雪の問いに森村は明るく答える。
「日本のお菓子とか食べたことなかった?」
 今度は匠が聞いた。
「はい。こっちにきて初めて」
 そう言いつつ、森村は二人の前にしゃがみこんだ。
「夕べ、またあの人来てましたね」
 笑顔のままの森村の話が飛んだ。
「あの人?」
 千雪が眉をひそめた。
「一昨日も来てたでしょ?」
 森村は匠を見た。
「ああ、あの清楚そうな美人? ボスを訪ねてきてた」
 匠の言葉には少々棘があった。
「清楚、そうな、美人やて?」
 千雪が聞き返す。
「一昨日、久しぶりです、とかって工藤さんに声かけてた」
「俺そこは聞いてない」
 森村の話に、匠が怪訝な顔をする。
「柏木珠紀、河原町にある柏木法律事務所の副所長」
 サラリと説明する千雪を森村と匠が同時に見た。
「ああ、そう、一昨日は、たまたま事故の話を聞いて、工藤さんを訪ねてきたとかって言ってたけど」
 森村が付け加えた。
「実際は、所長の柏木茂久弁護士、柏木珠紀の父親は、手島建設からちょくちょく仕事を依頼されてるらしい」
 千雪が言った。
「やっぱ、そういう手合い?」
 匠が頷いた。
「まあ、そうなんだけど、あの二人、柏木さんと工藤さんって何か過去にあったっぽい?」
 森村が千雪に尋ねた。

 


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