険しい目つきで千雪をひと睨みした工藤のポケットで携帯が鳴った。
「ああ、わかった。ああ? ゲスの勘繰りはいい」
小田から早速柏木法律事務所に連絡を取ったという電話だったが、「お前、実は柏木と昔関係があったのか?」などとダイレクトに聞かれて、工藤は苦々しい顔になった。
「MBC時代、顧問の弁護士事務所から柏木がちょくちょく局に足を運んでいただろう」
「遊びなら付き合うと言ってやったら引き下がったんだ。それ以来何の関係も連絡も取っていない」
すると小田は「何だと?」と語気を荒くする。
「柏木に言い寄られて袖にしたってことか? このやろ、そのうち背中から刺されるぞ」
「下らんことを言ってないで、きっちり仕事をしろよ」
「フン、増々貴様の仕事をするのが腹立たしくなってきた」
「うるさい。依頼人の利益を守るのが貴様の仕事だろう」
「改めて貴様に言われるまでもない」
喧嘩腰のように電話を切った小田だが、そんなやり取りは今に始まったことではない。
工藤は携帯をポケットに仕舞いながら、今朝方、ドキュメンタリー番組の出演者リストを渡して帰って行った良太のことも気になっていた。
あのやろ、何か、不自然だった。
目を見なかったんだ。
何だ? 一体。
そんな工藤の声が聞こえたかのように、スタジオで撮影を見ていた良太は一つくしゃみをした。
「大丈夫? 良太、顔色悪いよ?」
竹野にまで心配をされるようでは、と良太は苦笑する。
「いや、空気がちょっと変わったから」
「無理してるんじゃない? 京都から戻ったばっかなんでしょ? あたしのビタミン剤あげよっか? 栄養ドリンクのがいいかな、いっぱいあるよ?」
竹野は自分のバッグからビタミン剤の瓶や栄養ゼリー、ドリンクなどを取り出して良太に差し出した。
「いや、そんな……」
「遠慮しない! お互い身体だけが資本だもんね」
手に握らされて良太は「ありがとうございます」とちょっと頭を下げる。
「やあね、他人行儀やめてよ」
サバサバと言って良太の肩をポンと叩き、撮影に備えてメイクを直してもらうためにたったか去って行く竹野は、むしろ男前だ。
自分もそうだが、こうやって俳優陣も栄養サプリを摂り、ジムで身体を動かして維持しながら仕事を続けている人が多い。
竹野などは年齢とはうらはらに、この業界に長くいるだけあって、きつい撮影を乗り切るためのノウハウはベテランのそれだ。
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