春立つ風に111

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「何か知ってんのか?」
 良太が尋ねると、小笠原は重い口を開いた。
「うん、まあ………」
「知ってるんだな?」
「けど、プライベートなことだし」
 小笠原は言葉を濁す。
「いいから話してみろよ」
 良太は追及を緩めない。
「……彼女、好きな人がいて……」
 え、それって。
 良太は以前、海老原が自分の妹のことをあけすけに詰るように話したことを思い出した。
「……でも、相手には付き合っている人がいて」
「お前にそれを打ち明けて泣いてたのか?」
「……や、それがまた複雑で、実はその相手が別れたんだと。たまたまその相手とそういう話になって、それで彼女自分の気持ちを伝えたらしいんだ」
「……それで?」
「実はずっと好きな人がいるからって、ごめんなさいされたんだと」
 良太は、はあ、とため息をついた。
「そんな状態で、彼女、撮影大丈夫かな?」
「ちぇ、良太、彼女のことより撮影かよ。冷てぇやつ」
 小笠原はぶすくれた顔で良太を見やる。
「仕方ないだろ、俺の仕事だ。まあ、恋愛絡みだと、頭ん中ぐちゃってなるわな。しかも失恋とか」
「それが相手の好きな人ってのを、彼女、知ってるっていうんだ。地の底に叩き落された感じっての? 俺だって、わからないでもないからな。実はここに来る前、彼女とそんな話してて、忘れ物したのに気づいてうち戻ってたんで……」
 それで遅くなったわけか。
「いいけど、あんまり真中に心配かけんなよ?」
「わかってるよ。ってか、彼女、その相手の好きな人のことぜってえ言わないんだ、俺には」
「言ったところでお前は知らないからだろ」
「……うーん、と、思うんだけどな」
 何となくまだ煮え切らない顔で小笠原は良太の肩越しに美亜を見た。
 ってことは、小笠原も失恋決定、か。
 良太は口には出さなかったが、人それぞれいろんな想いを抱えているのだと、改めて思う。
 務めて考えないようにしようと思う程に、工藤とあの女性が抱き合っているシーンが、フラッシュバックのように良太の脳裏に現れる。
 あの人、絶対工藤のことすごく好きなんだ。
 そんな風に彼女の想いが良太の心臓に飛び込んできたのだ、あの時。
 彼女の肩に置いた手からは逡巡する工藤が垣間見えた気がした。
 と、俺まで引き摺られてどうする!
 良太は心なしか沈んでいる小笠原の肩をポンポンと叩いて、もう一度美亜のところに歩み寄った。
「大丈夫ですか? もし、ダメなようなら」
 撮影を明日にしてもらった方が、スケジュール的にもいいだろう。
「いえ、もう、平気です。ご心配おかけしてすみませんでした」
 顔を上げた美亜はキリっとした表情を見せていた。
 宣言通り、次には問題なくシーンの撮影が終わり、美亜もほっとした笑みを浮かべていた。

 


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