春立つ風に112

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 小笠原も撮影に入ると、全く今しがたの情けなさ極まれりな顔などどこへやらで、きっちり仕事をしている。
「問題は解決した?」
 休憩に入るとホッと胸を撫でおろす良太に、宇都宮が声を掛けてきた。
「ええ、まあ」
「自分じゃないから、余計神経を遣うよね」
 宇都宮はさり気なく良太をフォローしてくれる。
「すみません、宇都宮さんにまでご心配かけて」
「いやまあ、一応、年長者だし? 座長だし? って、俺、つい色々見ちゃう癖がついちゃってさ」
 コーヒーを飲みつつ、宇都宮は言った。
「良太ちゃんの気持ちはよくわかる」
 かといって、宇都宮は何があっても動じない感じでドンと構えている。
 こういう人が座長って、制作側は有難いかもな。
 ふと、良太が視線を感じて顔をあげると、カウンター横で楢木と海老原が何か話しており、海老原がこちらを見ている。
 思わず顰め面になってしまった良太は視線を外し、「明日でここのバーでの撮影は終わる予定で、次はスタジオになります」と宇都宮さんにボソリと言った。
「だね~。俺はロケのが好きなんだけど」
「そうなんですか? 真夜中の撮影とかもあるのに」
「何かそういうの、逆にビシッてするでしょ」
「なるほど」
 いずれにせよ、このバーとは早くおさらばしたい、というより海老原と早く離れたいと良太は思う。
 と、また海老原に視線を向けた良太は、今度は海老原と美亜が何やら口論しているのに気づいた。
 美亜はこれで撮影は終わりだから、泣こうが喚こうがいいかも知れないが、静かに話しているものの、美亜の表情は険しく、海老原を詰っているように見えた。
 しばらくそうやって話していたが、美亜はやがて足早に化粧室に駆け込んだ。
 一体何なんだよ、あの人。
 問題持ち込むんなら、こないでほしいよ。
 良太はイラつくのを辛うじて堪えたが、すぐに帰るかと思っていた美亜は、撮影が終わるまで水谷と一緒に隅で静かに待ってから、小笠原や真中と一緒に帰って行った。
 撮影クルーが片づけをしているうち、良太は店を出る俳優陣らに挨拶して送り出し、楢木や海老原にも一応型通りの挨拶をした。
「これからちょっとまた飲みに行かないか?」
 挨拶ついでの海老原の誘いに、本来なら断るはずだが、美亜のことも気になっていた良太は頷いた。
「わかりました、少しお話したいこともありますから」
「良太ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
 俳優陣の最後に宇都宮が店を出ると、スタッフがまだ作業をしていたが、楢木が、「ここは私が見ておりますので」と言うので、任せて海老原とバーを出ることにした。

 


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