「美亜さんと何かありましたか? 正直、撮影中に、俳優さんたちに精神的な圧力をかけられるのは困るんですが」
先日海老原に連れられて行った高級バーのVIP席に落ち着き、オーダーが済むと、良太は単刀直入に言った。
すると海老原は鼻で笑い、「美亜のことなら、俺と美亜は毎回あんなもんだ。今に始まったことじゃない」と開き直る。
自分の妹だろう、とつい口にしそうになって、良太は、それこそ家族のことに口出しするな、くらいな反応だろうとぐっと抑えた。
「それに、泣いたりしたのは美亜が、野口が別れたからって、告ったりするから自業自得だろう」
「自業自得って、いくら何でもそんな言い方……」
「なーに、お前ンとこの事務所の小笠原がえらく親身になって美亜を慰めてくれてたじゃないか」
こいつ、本気でぶん殴ってやりたい、と良太は拳を握りしめる。
「小笠原には節度ある行動をするように言ってあります」
「おいおい、色恋に節度って、仕事を離れりゃ、男と女がどうなろうと知ったこっちゃないだろう? 小笠原も駆け出しのアイドルじゃあるまいし、女と付き合うのに何に遠慮することはない」
さらに良太の感情を逆撫でるような海老原の物言いに、激高しそうになったものの、この男はわざと人を怒らせて面白がる愉快犯の類だと思い直して、良太はグラスのヘネシーを二口ほど飲んで気を静めた。
バカルディ、と口にしかけて、今夜良太はそれをやめた。
ラム酒を飲むと、工藤のことがまた脳裏に蘇りそうで、さらには酒の香りは夜の工藤に容易に繋がりそうな気がして、コニャックにした。
かつて工藤とはワンクールで別れてやったという山内ひとみとは親しくなり過ぎて、かつあの毒舌で、工藤とのことで生々しさを感じたことはないが、昔付き合っていたらしい田所夫人やイタリアの加絵や、ミラノのルクレツィアや、それに京都のあの女性からは同じ生々しい匂いを良太は感じとっていた。
嫌だ。
結局またあの京都の二人の残像が思い出されて、良太はまた一口コニャックを口に運ぶ。
美味いはずの酒が、妙に嫌な臭いがした。
悪酔いする前兆に、良太はグラスを置いた。
おそらくこの海老原からも、良太は最初からそれと同じ様な臭いを嗅いでしまったのだ。
しかも海老原の口から飛び出した、色恋がどうのという言葉が余計に良太の嗅覚を乱してくれた。
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