春立つ風に115

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 ふいにまた、本谷和正が工藤に告った時のことが蘇る。
「お前の本気度までこき下ろすつもりはない。あいにく、こんなオッサンのどこがいいのかわからんが、よく告られるんだ男にも。だが、悪いがお前の気持ちには応えられない」
 それが本谷に対しての工藤の答えだった。
 せめて付き合っているやつがいるくらい、言ってくれたらいいのに、とは良太は心で文句を言った。
 だがひょっとして、本谷に対してだけの答えではなかったのかも知れない。
 良太に対しても結局同じなのかも知れない。
 何故なら、良太とも「付き合っているつもりはない」から。
 結局、俺が勝手に工藤に一喜一憂しているだけの独り相撲なのかも。
 負のスパイラルは留まることを知らず深淵に落ちていくような気がする。
「大丈夫か?」
 海老原の声がくぐもって聞こえた。
「すみません、悪酔いしたようです。これで失礼します」
 良太はようやく絞り出すように言うと、コートとバッグを辛うじて掴み、立ち上がった。
 だがよろめいたところを海老原に支えられた。
「出よう」
 海老原は良太を抱えるようにして店を出た。
「あの、お支払いを」
「済んでる」
 エントランスにベントレーが横付けされ、ドアが空いた。
 良太は、はっとしてそれに気づいたが、海老原に後部座席に押し込められた。
 頭がくらくらしている。
 強い酒を短時間で飲んだのが悪かったのだろう、一気に酔いが回ったらしい。
「乃木坂まで……お願いします……」
 時折、意識が戻るのだが、ふっと目を閉じてしまう。
 やがて車は滑るように丸の内のビルから走り去った。
「え、やっぱり、あれ、礼央だわ。それに広瀬さん!」
 ベントレーが走り去るのを見て声を上げたのは、ちょうどビルの前に着いたばかりの車に乗っていた美亜だった。
「どうしよう、もし礼央が……」
「真中、あの車、追え!」
 助手席の小笠原がすかさず指図する。
「はい!」
 真中はアクセルを踏んだ。
「海老原さんなら、松濤にマンションがあります」
 美亜の横で冷静に説明したのは水谷だ。
「でもまさか海老原さん本気かよ?」
 小笠原が訝し気に言った。
「まさかとは思うんだけど………、さっきのビルに入ってるバーで酔わせて、そのままモデルの女の子や男の子を自分の部屋に連れ込むのが礼央の習性なのよ!」
 美亜が声を上げた。
「はあ、習性ってね………まあ、宇都宮さんからも、海老原さんが良太を連れてバーに行ったのが心配だとか電話してくるくらいだから」
「取引先の方であろうと、海老原さん、関係ないんです、今までにもこんなことよくありまして」
 水谷もため息交じりに言った。
 数台前を行くベントレーは青山通りに入った。
「バカなのよ、礼央は!」
 声を震わせて美亜が激高する。

 


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