春立つ風に116

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「とにかく、真中、見失うな!」
「はいっ!」
 小笠原は檄を飛ばし、真中はハンドルを握る手に力を入れた。
「松濤へやってくれ」
 ふっと意識を取り戻した良太に海老原の声が聞こえたのは、信号で停まっていた車が動き出した時だ。
 身体を起こした良太は、「その前に乃木坂で停めてください」と思いのほか大きな声で言った。
「何だ、気が付いたのか?」
 良太の肩を抱いたまま海老原が言った。
「俺がゲロったりする前に、停めた方がいいですよ」
 イラついてつい、強い酒を煽ってしまった。
 こいつの前でやることじゃなかった。
 反省しきりの良太は心の中で呟いた。
「酔っ払いは威勢だけはいいんだ」
 フンと笑う海老原に、「訴訟沙汰になるようなことはしないにこしたことはないでしょう」と良太は語気を強めた。
「こう見えて一応法学部だったんで」
「へえ」
 海老原はあくまでもバカにしたようにせせら笑う。
「今はプライベートな時間ってことで言わせてもらいますけど、俺は海老原さん、あんたが嫌いだ」
 良太は断言した。
「残念だな、俺は良太ちゃんが好きなのに」
 信号機の先に、見覚えのあるビルの看板が見えてくると、「その先で停めてください」と良太は言った。
「停めろ」
 海老原の一言で、車は青山プロダクションのビルの少し手前でスッと停まった。
 先に海老原が降りると、良太はふらつきつつも何とか車を降りた。
「ありがとうございました」
 礼を口にして歩き出そうとした良太は、よろけて転びそうになった。
 クッソ! 海老原も工藤もクソッタレだ!!
 声には出さなかったものの、良太は心の中で喚いた。
 負のスパイラルなんか、滅多切りにしてやる!
 頭の中は酔いと怒りで混乱していた。
「おっと、大丈夫か?」
 海老原が危うく良太を抱きとめたが、海老原の腕を良太は振り払う。
「大丈夫だってるだろ! 工藤………」
 自分ではちゃんと歩いているつもりだが、よたつきながらエレベーターの前まで来た良太は、それでも部屋に着くまではなんとか歩いていた。
 だが、ドアを開けるなり出迎えた猫たちを「よしよし……」としばし撫でたところで、吐き気に襲われて良太はバスルームに飛び込んだ。
 ようやく出てきた時は、ぐったりと炬燵の前にへたり込む。
「クッソ、俺としたことが……」
 あんなヤツの科白に踊らされて悪酔いとか、冗談じゃないぞ!
 情けなさ極まれりな自分に腹が立つ。
 吐気は何とかおさまったものの酔いは収まりつつあったが、ただ今度はガンガンと頭痛がし始めたので、デスクの引き出しから頭痛薬を探し出して、冷蔵庫から取り出したポカリで飲み下した。
「海老原のヤツも工藤も、もう俺には関係ない!」
 良太は声に出して喚くと、ハア、と大きな溜息をついた。

 


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