春立つ風に122

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 それは工藤だけでなく、制作クルー、俳優陣全てがそんな感じなのだ。
 巷のあれやこれやにかまっている暇などないはずだ。
 だが、休憩になると、誰かしらが殺人事件のことを口にしているのも当然といえば当然だ。
 しかも被害者は中山組傘下のカタギとは名ばかりの建設会社社長である。
 警察にとってもマスコミ、ネットにも騒ぐのには恰好のネタに違いない。
 千雪はセルフサービスで用意されているコーヒーをカップに注ぎ、休憩中の工藤に近づいた。
「お疲れ様です」
 千雪はコーヒーを差し出した。
「おう、すまん」
 工藤はカップを受け取ってコーヒーを一口飲んだ。
 千雪はその横で、ポケットから取り出した手帳を開いたところで、「あ、しもた、工藤さん、ペン、持ってはる?」と聞いた。
 工藤は怪訝な顔をしつつも胸ポケットに刺しているペンを千雪に差し出した。
「おおきに」
 千雪はそのペンがダンヒルで、渋谷から送られた画像のペンと全く同じ型のボールペンだということを確かめた。
 無論色も黒で、文字が刻印されている。
 だが、そのペンには良太から聞いた、日付やプラグインの文字は見当たらず、製造番号のような何ケタかの数字のみが刻まれているだけだ。
「このペン、あ、ひょっとして良太からせしめたヤツ?」
 千雪はカマをかけてみた。
「ああ? そういや、前に良太から借りたままだったか?」
 工藤はペンのことなど、何ら頓着していないようだ。
 良太も工藤が使っているのであればなのかもしれないが、俄かにペンがクローズアップされるまで気にもしていなかったのだろう。
「いや、良太も笑いながらそんなこと言うてたくらいやし、別に気にしてないみたいやからええんちゃいます? 良太、もう別のペン使こてたし」
 千雪は工藤にペンを返しながら、どういうことや? と心の中で疑問がわいていた。
 藤堂の話では、良太がもらったボールペンには、日付やプラグインの文字が刻まれているはずだ。
 良太はそのペンを工藤に貸し、工藤はそのままポケットに刺して使っている。
「え? 工藤さんのペンにも、プラグイン、入ってなかったって、それはおかしいですよ。俺、何て書いてあったかってのは藤堂さんに聞くまで正確には覚えてなかったけど、数字だけでなくおそらくプラグインの刻印があったはずなんです」
 良太に連絡を入れると、ちょっと興奮気味にそう言った。
「もう一度、藤堂さんに連絡してみます」
 工藤もペンを失くしたとか新しく買ったとは言っていないし、そんなことでウソを言う必要もないだろう。
 ほな、藤堂さんから良太に渡されたペンは、一体いつどこに消えたんや?
 些細なことのようで、千雪は何か喉に刺さった骨のような、嫌な感じがした。

 


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