いずれにせよ問題は、手島が殺されたことだ。
千雪はクールな表情を曇らせた。
てっきり、また工藤に罪を擦り付けるべく、何かトラップでも仕掛けているのではないかと思ったのだが、一番あり得そうだったのは、床に落ちていたというボールペンだが、工藤を掠りもしなかった。
いや、迂闊に気を許してはいられない。
工藤がいるこの京都で、中山会関連の手島が殺されたのだ、何かしらあるかも知れないと見て動くに越したことはない。
「ことは殺人事件ですからね、上司が、撮影クルーの中にいろって、動く時は必ず誰かと一緒にって工藤さんに釘を刺しているようです」
森村がこそっと呟いていた。
その、上司にも、まだ敵の動きがわからないわけやな。
千雪はメガネの奥から撮影風景をじっと見つめ、とりあえず「猫の手」連中の連絡を待つことにした。
一体何だ?
工藤は黙り込んだ千雪にチラッと視線を向けると、一層険しい顔でコーヒーを飲んだ。
何だ? ボールペンがどうかしたのか?
ここ数日というもの、いや、組の下っ端に車をぶつけられてからというもの、やたら波多野が、ロケ現場やホテルから動くな、動く時は必ず誰かと一緒に動け、と再三煩く言ってくるのに工藤は耳タコだった。
そこへ手島が殺されたという。
確かに、また昨秋の二の舞はごめんだ。
東京でまた、良太がやきもきしているのは手に取るようにわかる。
わかるが、ここでまた何だかだと連絡を入れると、余計あいつは舞い上がるからな。
とにかく、撮影だけは無事終わらせる。
工藤は休憩中のクルーや俳優陣の顔を眺めながら、コーヒーを飲み干した。
「え? どういうことですか?」
千雪に手招きされてやってきた森村は、ボールペンが妙なことになっている、という千雪の話に、声を落としながらも不穏そうな面持ちになった。
「それじゃ、元々の良太さんのボールペンが行方不明ってことですか?」
「せや。良太は絶対失くしたり新しく買ったりはしていないて、断言しよったし、工藤さんももしまたボールペン失くしたかて、わざわざ同じもん買うたりまでせえへんやろ。ていうより、てっきり良太のボールペンやて思い込んどった感じやし」
千雪は言葉を切った。
「ひょっとして、会議とかで全く同じボールペン持ってた人がいて、その人のと入れ替わったとか?」
首を傾げながら森村は思いつきを口にする。
「んな偶然、ある思うか? それに、気になるのんは、工藤さんが今持っとるペンの刻印されとる番号、渋谷さんからせしめた画像のペンの番号と続きな気がするんや」
「え?………てことは、もしか、意図的にボールペンを取り替えた人間がいるってことですか?」
興奮気味に森村は言った。
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