春立つ風に124

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「それを踏まえて考えを組み立てんと、事件にならんやろ」
 千雪は軽く言いきった。
「はあ……てことは、いつ、どこで、誰が、工藤さんの胸ポケットに刺してあったボールペンを取り替えたか、ということですよね」
 森村は一人頷いた。
「せや、いつ、やろな。もし、あの画像のペンと続き番号やとしたら、一週間以内いうことになる。介護施設にボールペンが届いたんが一週間前やいうことやから」
「って、何すかね、それ。介護施設って。そこからどういう経緯で工藤さんのポケットや事件現場にボールペンが運ばれたんすかね」
 腕組みをした森村はしきりとブツブツ言っていたが、「森村!」と監督に呼ばれると「はいっ!」とばかりにすくっと立ち上がって走って行った。
 元気なヤツや、良太とどっこいどっこいのベビーフェイスやのにシールズなあ。
 森村の後ろ姿を眺めていた千雪の携帯がポケットで震えた。
「おう、誠、何かわかったか?」
「お前、介護施設がどうのって言うとったやろ?」
 千雪は辻の言葉に眉を寄せる。
「美弥が、あこの家政婦の後ついてったら、長岡京市にあるライフナガオカいう介護老人ホームに辿り着いたんや。また豪勢なとこらしいわ。あこには、うちの親はよう入れんで」
「そんで?」
 千雪は俄然興味を持って、まだ何か言いたげな辻の言葉をぶった切った。。
「うまい具合に美弥のやつ、今、介護士やっとんのや。そんで、仕事探しよるいうて、施設の中に潜り込んだんや」
 美弥は昔、辻の仲間だった頃は、男もビビらせるくらいのヤンキーだったらしいと千雪は聞いている。
「ほんまか?」
「そこに誰がおった思う?」
「もしかして、父親の方か?」
「あたりや。それも重度の認知症でしかも心臓が悪いらしうて、もうあんまり長くないらしいで。ほんで、美弥がその父親が上着のポケットに刺しとったペンを撮ったやつ、送るわ」
 辻から届いた画像に映し出されたペンは、渋谷からせしめた画像のペンと同じように思われた。
「それと、山倉が、前から何回か来とる家政婦らしい女と二人で車で奈良の方に向かったんを尾行したんやけど、途中、赤信号に引っかかって見失いよって」
「しゃあないわ。ほな、引き続き頼むわ」
 電話を切って、千雪は考え込んだ。
 ボールペンがどこから降ってわいたかは、これでわかったようなもんやけど、それを、いつ工藤さんのと取り替えよったんや?
 その時また森村がこちらにむかって走ってくるのが見えた。
「千雪さん、わかった!」
 真剣な顔つきで森村は千雪の目の前に、携帯の画面を突き付けた。
 

 


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