春立つ風に149

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「はあ? 海老原さんと仲良しなんかするわけないじゃないですか! 野口さんから、色々迷惑をかけたから、今夜小笠原と一緒にご飯に招待したいって言われただけで!」
 工藤が怒鳴るからついつい良太の方も声が大きくなる。
 ってか、何で海老原とご飯食べに行くこと工藤が知ってんだよ。
 そう思ってから、ああ、と良太は合点がいった。
 良太に電話が入る前、秋山が電話で話していた相手って工藤だったんだ。
 すると一瞬間があったが、今度は「大体、千雪とこそこそ、手島や柏木なんかのこと嗅ぎまわりやがって、白石みたいな顔もガタイもでかい髭面がわからないと思うか!」ときた。
 え、白石さん、実は工藤のことタイプだって言ってた乙女なのに。
 この工藤の発言は絶対知られないようにしなきゃ。
 心の中で良太は白石にゴメンと手を合わせる。
「お前は自分の仕事だけやってろって言ったはずだ! ヤクザなんかに関わって、ド素人が怪我するくらいで済めばマシくらいなもんだ。そっちは波多野に任せておけばいいんだ!」
「そんなこと言ったって、また魔女オバサンがスパイもどきに電話よこして」
「何だと?」
 怒気が増したような声で工藤は聞き返した。
「いや、子どもにプリペイド携帯持たせて、俺に連絡してきて」
「あのクソババア! いいか、金輪際クソババアが何を言ってこようが無視しろ!」
 また一段と大声で工藤が怒鳴り散らす。
「だけど、あんなど真ん中な内情、魔女じゃなきゃ教えてくれないし」
「何を言ってきたんだ?」
 周りをチョロチョロするヤクザの下っ端が飲み会で騒いだり、明らかに息のかかった弁護士なんぞが現れたり、いい加減ウザいだけの外野を無視し続けて、とにかく撮影をクランクアップさせることだけに集中してきた工藤は、イライラが沸点に達していた。
 そんな時に秋山から、また海老原が良太を誘っているなんぞと言われた日には、ついに堪忍袋の緒が切れた。
 その上、ババアがまた良太に近づいて何を吹き込んだんだ?
 誰かあのクソババアに良太への接近禁止命令を出してくれ!
「若頭の大石は義理人情に篤い人だったのに、息子の健一郎は悪賢い男で、そんな男と孫を一緒にさせるものかって」
 確かに中にいなければなかなかわからないことだろう。
「大石健一郎は柏木弁護士を使って、篠原を取り込んで横領したクスリの横流しをさせたり、手島のことも柏木に丸め込ませて、殺させたんだって。柏木弁護士はこれまでにも大石に言われて、何人も消してるとか」
 一応、そのあたりは良太も声を落として話した。
「フン、そんなヤクザの内情なんかほっとけばいい。柏木はロスで波多野が互いに情報を共有している連中に捕まった。さっき波多野から連絡があった」
「え…………」
 良太は絶句した。
「じゃあ、向こうの警察に………」
「警察なんかに渡すわけはない。それこそ内情を知り過ぎてる。相手は情報をやり取りするだけのヤバイ連中らしい。まあ、そんなことはどうでもいい! いいか、もう金輪際海老原にはかまうな! わかったな!」
 ブチっと切れた携帯に、「いい年して、そんな怒鳴り散らしたら血圧上がっても知らないからな!」と良太は喚く。
 途端、秋山やアスカが、しっかり聞いていたのだろう、吹き出してゲラゲラ笑う。

 


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