書道家の三宅は、日本の文化を扱ったプロジェクトで、日本の文化を担う文化人や職人にスポットを当てるというドキュメント番組に出演依頼をしようとしている相手だ。
既に茶の湯の佐々木淑陽、能楽師檜山匠、和菓子職人黒岩研二、華道家五所乃尾理香など、身近なところから打診して快諾を得ている。
三宅雄一郎は書家としては少しばかり毛色が変わっていて、書というよりほとんど抽象画のような面白いものを創る四十代のクリエイターだ。
以前から良太がコンタクトを取っていたのだが、海外をあちこち渡り歩いていて、なかなか連絡がつかなかったようだ。
「今日そのあとは何かあるか?」
「いえ、たまったデスクワークをする予定で」
「夕方、『夕顔』にいるから来い」
そう言うと、工藤は良太の返事も待たずに携帯を切る。
「今日くらいは少しゆっくりできるんですね。少しはご自分のお身体のことも大事になさいませ」
にこやかに言う鈴木さんの言葉は、しかし結構強い命令のようなものだと、工藤は改めて思い、「そうですね」と言う以外許されない気がした。
一方、またしても一方的に命令して切れた携帯に、「クッソ、俺が行かないわけないと思いやがって!」と良太はつっかかってみる。
「挙動不審やで? 携帯に向って一人で喚きよって」
後ろから知った声が良太を揶揄した。
「千雪さんならわかるでしょ?! いきなり切るんですよ、あの人は!」
クスクス笑い、千雪は良太の頭をくしゃっと撫でる。
「まあまあ、今さらやろ? それより寒うて、中入ろ」
三宅にアポを取った後、千雪から電話があり、渡したいものがあるからというので、三宅と会う京新プラザホテルで待ち合わせていた。
中に入ろうとしたその時、工藤からの電話が入ったのでビル風が吹きすさぶエントランス前にいたのだ。
「ちょうど新宿でロケだったので、ご飯食べても次の約束まで時間あるなと思ってたんです」
「あ、メシ、まだ?」
「ええ、腹ペコで」
「俺、鮨食いたい」
二人はホテルに入っている寿司屋に入ると、ランチをオーダーした。
「ラッキーですね、ランチあるって」
「ほんまや」
熱いお茶がテーブルに運ばれると、千雪は茶碗に両手で触れた。
「あったかいわ」
「今日風すごいですよね」
とりあえず腹ごしらえを済ませると、「ここは俺がおごるし」と千雪が支払いをした。
「ありがとうございます。ごちそうさまです」
「さてと、コーヒー飲みながらやな」
千雪は良太を促してラウンジに向かう。
「あの、何かあったんですか?」
良太はもったいぶった千雪のようすに、少し不安を覚える。
「まだ、大石とかの件が尾を引いてるとか?」
コーヒーを頼んでスタッフが退くと、良太は気が急いて聞いた。
「まあ、関連あるといえばある」
「まさかまた工藤に何か?」
すると千雪はくすくすと笑いだした。
「何ですか? 人が真剣に……」
良太は軽く抗議する。
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