「書道のセンセとの約束て何時?」
「二時半です。三宅さん東京ではここにお泊りということで、お部屋に伺うことになっていて」
「へえ」
「あと一時間半はある」
良太は携帯を見て言った。
「ボールペンのことやけどな」
「へ?」
千雪の話が飛ぶのはよくあることだが。
「柏木が工藤さんからわざわざ取ったはずのボールペンや」
「ああ、それ! どこ行っちゃったんだろ、俺のボールペン。やっぱ、どこかで落としたとか? 自分の買ったペンと間違って置いたとか?」
良太はどう考えてもわからなかった。
結果、工藤は一連の事件とはかすりもしなかったのだ。
「あんだけ綿密な計画を遂行しよった柏木が、そないミスすると思うか?」
「うーん……」
そう言われても良太は唸るしかない。
「わざとや思う」
「わざとって?」
「大石らに持ちかけられた当初の計画は、きっと工藤さんのボールペンを手に入れて、手島の殺害現場に落としておくはずやったんや」
「大石だったら当然そうだと思いますけど」
「やから、工藤さんのボールペンはわざと、置かれんかった」
「俺の読みでは、計画を持ち掛けられた時、柏木は自分の報復を決めたんや思う。大石の計画では手島を殺して工藤さんを犯人に仕立て上げるはずやった。それを犯人を篠原に仕立てるために北海道にいるはずの篠原を京都に呼びつけ、お得意のフルニトラゼパムかなんかで眠らせて、バスルームかなんかに篠原を隠しといて、その間にやってきた手島を殺害し、篠原を死体と一緒に寝かせる」
千雪は見ていたかのように説明する。
「部屋のスリッパが使われとったいうから、柏木が使こたんやろ。ボールペンを落とし、篠原の上着のボタンをちぎってベッドの下に落とす。柏木はおそらく篠原っぽく変装でもしてホテルを出たんやろ。目覚まして慌てた篠原はとにかく逃げることしか考えてないもんやから、ホテルの近くで目撃されたりしたんや」
「でも篠原も手島も柏木さんに呼ばれたって、何の疑いもなく簡単にホテルの部屋に行ったわけですか?」
すると千雪はフッと笑う。
「そら大石が柏木を使て、篠原も手島も手なずけとったからやろ。ええ女にホテルに呼ばれたら、篠原なんかも逆に柏木に手玉に取られとったん違うか?」
良太はようやく、ああ、そういうことか、と理解した。
「柏木は長岡さんを犠牲にしても、自分や父親を食い物にした大石や篠原、手島に完璧に報復したいうことや」
明るいラウンジで話すには物騒な話だが、それは納得がいった。
「だから、ボールペン………」
「柏木が持ってったんやろ、多分。最初から好きやった人を陥れるために使うつもりはなかったんやないか?」
良太は一瞬ぽかんと口を開けたまま、千雪を見つめた。
「柏木さん、そうだったんだ、やっぱ」
「けど同情はいらんで? 柏木は頭の切れる冷徹な犯罪者や。父親も捨てて逃亡しよったんやからな」
「はあ。でもあれ、工藤さんの思い出にって持ってったんならちょっとかわいそうかも。そもそも俺が藤堂さんにもらったやつを、たまたまペンがなかった工藤さんが失敬してそのまま使ってただけなやつだし」
千雪はくすくす笑う。
「最後は良太の勝ちいうことやな」
「何言ってんですか」
良太は千雪を睨みつけながらコーヒーを飲んだ。
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