さっきからいつもに増して何も言わない工藤が不気味な気がして、良太は何となく、工藤の向かいに正座をする。
勝手に『猫の手』軍団を使って工藤の周辺を見張らせたりしたことで、おそらく絶対雷が落ちることは間違いないだろうと、心の中で構える。
千雪がわざわざ請求書の宛先を工藤に確認したりするから、余計に工藤の機嫌を損ねたことは確かだ。
と、工藤が徳利を差し出したので、良太は慌ててお猪口を両手で持って酒を注がれる。
良太が酒を注ごうとしたが、工藤は手酌で自分のお猪口に酒を注ぐ。
「お疲れ様です。いただきます」
とりあえず最低限の言葉を口にして、良太は酒を飲む。
工藤はまだ口を開かない。
これは相当、溜まりに溜まったものをどやしつけられそうだと良太は思いつつも、沈黙に耐え切れず、「あ、ドラマのタイトルって結局どうなったんですか?」と無難なところから切り出した。
「お前が決めたんだろう? 最初から『コリドー通りでよろしく』で何も文句は出なかったぞ」
「俺は『コリドー通り』って言っただけで、『コリドー通りでよろしく』は坂口さんがこれにしようって言ったんですよ」
良太は詳細を説明した。
「坂口はお前が決めたって言ってたぞ」
「え、でも………」
「細かいことはいい。坂口がお前が決めたって言うんならそれでいい」
「はあ……」
釈然としないが、坂口は良太を立ててくれたのだろう。
何でもすぐに良太に押し付けてくるし、ちゃらんぽらんなように見えるが、言葉にはきっと経験の重さに裏打ちされたものがあるのだろう、と思いたい。
「書家ってのはどうだったんだ? 今日会ったんだろ?」
工藤は良太のお猪口と自分のお猪口に酒を注ぐ。
「あ、はい、三宅さん、ものすごく熱心に書について語ってました。海外では大きな筆で書を書くといったパフォーマンスも好評のようで、そのビデオも拝見しました。出演は快諾してくださったんですが、海外にいることが多いということで、三宅さんのスケジュールに合わせて撮影日程を決めることになるかと思います」
良太はキュウリの梅肉和えをつつきながら、えっと、まだ何か話すことは、となるべく工藤の雷を遠ざけようとあがいていた。
「あと、刀工っていうんですか、刀造る職人さんや、織物職人さん、宮大工さん、あと日本庭園なんか造る造園工さんとか、リストアップしてあります」
思い出しながら、良太は続けて説明する。
「出演者リストが出揃ったら、ミーティングで日程を決める。二クールだから最低十六人は揃えろ」
「ええ? それって逆じゃないんですか? どういう人をピックアップするかをミーティングで決めてから……」
「時間も人もないんだ、ピックアップはお前がやってるんだからいいだろう」
それでいいのか? と呆れ顔の良太にかまわず、工藤は手酌で酒を飲み、煮物に箸を伸ばす。
まあ、良太としても任された限りはプロフィールからアピールポイント、主要な撮影のポイントなど、今までやってきた自分なりのやり方できっちりデータを作り込んでからミーティングに臨むつもりではある。
「あ、そうだ、工藤さん、バイトってどうです?」
「ああ?」
眉間に皴を寄せて工藤は良太を見た。
「なんだ、バイトって」
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