春立つ風に168

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「あ、つまり、バイトを雇うとかってどうでしょうってことで」
 良太はどう説明しようかと思案した。
「バイトを雇いたいくらい忙しいってわけか?」
工藤は聞き返す。
「いや、そうじゃなくて、じゃなくて、ってか……」
「何が言いたいんだ? はっきり言え」
 工藤のイラつきが良太にも伝わってくる。
「いやその、森村くんが、バイトを探してるっていうんで」
「森村? あいつはADだろ。日比野んとこの。それに波多野の部下じゃなかったか」
 怪訝な顔で工藤は言った。
「それがですね、森村くん、養子でも波多野さんの世話にならないようにって自活を目指していて、定住ビザはあるんで……」
「養子? ビザ? わけがわからん。要領よくまとめて話せ!」
 工藤に一括されて、良太は一呼吸おくと、森村がバイトをしたがっていることを説明した。
「波多野が問題ないというのなら、うちは社員だろうがバイトだろうが募集したところで、入ってくるような物好きはお前くらいのもんだし、やりたいってならやらせてやればいいだろう」
 自虐的なセリフを並べ立てながら、工藤は徳利をまた空にした。
「何、捻くれたこと言ってんですか。どうせ俺は物好きですよ」
 ムッとした良太は、まだ酒が残ってる方の徳利をつまんで、手酌でお猪口に注ぐと、グイッとあける。
「日比野には一応確認しておけよ。いずれにせよ、日比野の方が優先だ」
「連絡します」
「あいつ、森村、どこに住んでるんだ?」
 ちょうどスタッフが天ぷらを持ってきたので、工藤はワカサギの天ぷらを口にする。
「三軒茶屋だから、表参道で乗り換えても二十分くらいですよね」
 良太もマネをしてワカサギに抹茶塩をつけて頬張る。
「うっわ、これ、激ウマ!」
 酒が回り始めると、良太はさっきまでいろいろ考えていたあれやこれや面倒なことはスカンと飛んで、いつもの健啖ぶりが戻ってくる。
「モリー、波多野さんの養子ってことは小さい頃苦労したってことですよね。しかもニューヨークとか。俺んちも苦労したって言えばそうだけど、家族がどうかなったってんでもないし、能天気だからなあ」
 さっき追加した徳利から酒を注いでくいくい飲んだ良太は、もう顔が真っ赤になっている。
「苦労がどうとか、比べるもんでもないだろう。本人の考えようだ」
「まあ、そうですけどねえ。苦労って言えば、柏木弁護士もお父さんの借金とかのせいで苦労したんですよね。でもどんな親でも放り出せずに今までちゃんと面倒見てきたんだ。それに付け込む輩が悪い!」
 良太は思わずダン、と拳でテーブルを叩く。
「ヤクザなんざ付け込むのが仕事だ」
「魔女も言ってたし! 大石ってろくでもないやつだって! 柏木弁護士、きっと奴らから逃げるタイミングをずっと待ってた……!」
 柏木、柏木と連呼されると、女に手玉に取られるところだったことを考えれば、工藤はあまり面白くはない。
「柏木のことはもういい」
 イラついて工藤は良太の言葉を遮った。
「何だよ、コソコソイチャコラしてたくせさ……」
 良太はブツクサ言って口を尖らせる。
「ああ? 言っておくが俺はあの女とは一切何もないからな!」
 工藤は一応潔白を主張する。

 


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