春立つ風に170

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 熱い湯を頭から浴びながら、工藤は今までにも覚えのある徹底的に仕事をやりつくした感と微妙な寂寥の思いもあり、多少の充実感をも感じていた。
 実際はこれから編集作業が待っているわけだが、些細なことにもこだわって創り込む日比野にしろスタッフにしろ、今回演者として参加した檜山匠の納得するまで追求するのをやめない性分が、このプロジェクトにまたピタリとはまった。
 スケジュールはオーバーしたが、檜山は練習と公演の合間をぬって東京からかけつけてくれた。
 お陰でマンネリを危惧していた主演の志村も檜山の勢いに呼応するかのように気合が入っていた。
 何よりうまくいかないばかりの後に手応えがあった時の高揚が、この創る仕事の醍醐味でもある。
 良太は良太で最近ではまた別の意味で今の仕事に面白みを覚えているようだが。
 良太は良太でいい。
 自分のやり方を押し付けるつもりもないし、正解があるわけでもない。
 バスローブを羽織り、タオルで頭を拭きながら工藤がベッドサイドに戻ると、良太がベッドに起き上っていた。
「大丈夫か?」
 目の焦点が合っていない。
「………シャワー浴びる………」
 よたよたとバスルームへ歩いていく良太は、ふらついてドアに肩をぶつけた。
「おい、酔ってるんならやめとけ」
 工藤の言葉など聞こえていないようで、無造作に服を脱ぎ捨てると、良太はバスルームに入ってシャワーコックを捻る。
 半分眠ったような状態の良太が気になってバスルームのドアを開けると、良太は壁に額を押し付けたままシャワーをかぶっていた。
 工藤は良太の腕を引くと、湯を停める。
「何やってるんだ?!」
 お陰でまた湯を浴びることになった工藤だが、とにかく良太を連れ出そうとしたものの、良太は工藤の腕を振り解くと、「シャワー浴びるんだって……」とまた中に足を戻す。
「おい、良太」
 工藤は仕方なく自分も中に入って良太を抱き寄せた。
「……いや……だ……工藤……あの人の匂いがするからやだ……」
「ああ? 何をわけのわからないことを言ってるんだ?」
 匂いなどするはずもないが、良太は工藤の胸に腕を突っ張って後ろに下がる。
「勘繰りも大概にしろ」
 工藤はグズグズと抗う良太を抱き寄せると唇を塞いで、良太の動きを封じた。
 ひどく長く放っておいたのだと思い知らされた。
 同時に工藤の中で滾るものが口づけを執拗にさせる。
「……ごまかしやがって………」
 だが一瞬唇が離れると、良太は工藤のキスが自分を宥めようとしたのだと感じ取ったようで、また工藤の腕から身を捩ろうとする。
 

 


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