春立つ風に174

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「おう、遅くなったな~」
 ちび猫を抱き上げると足がまたよたってバランスを失いかけながらも、足元に摺りつくナータンを踏まないように気をつけながら部屋に入り、リュックを炬燵の上に放った。
 本当のところこのまま炬燵で二度寝したいくらいだが、残念ながら仕事が待っている。
 シャワーを浴びて、身支度を整えると、脱ぎ散らした服のことを思い出した。
 九時四十分、取って来てからでもいいだろう。
 良太がノックをしてドアを開けると、工藤はとっくにスーツに着替えて電話をしていた。
「ああ? 国籍なんざどうでもいいが。あんたの方を優先にするように言えばいいんだな」
 国籍、と言うキーワードから、ひょっとして森村のことか、と良太はバスルーム辺りに脱ぎ散らした服を探すと、まとめて洗濯物のかごに入っている。
 工藤のものも一緒になっているから、わざわざ自分のだけを取り出しても意味がない。
「波多野の方は問題ない。森村に一度顔を出すように言っておけ。便宜上、履歴書も提出させろ」
「はあ、わかりました」
「森村が来たら、お前、たまにはジムにでも行け」
「は?」
 何のことだと良太は工藤を振り返る。
「筋肉が落ちてガリガリだろうが」
 それを聞くと一気に良太の顔が紅潮する。
「俺がガリガリだろうが誰の迷惑にもならないだろっ!」
「触ると骨にあたったりして、俺が何も食わせてないみたい………」
「斎藤さんに会うんじゃなかったんですか? もう十時になりますよ!」
 今度は頭が沸騰仕掛けた良太は、途中で工藤の言葉を遮って部屋を飛び出した。
  
 

 午前中は『いまひとたびの』のロケで横浜に出向いていた良太は、午後には都心のホテルオーニシでパワスポの『セ・パ新人王』特集のためのインタビューに立ち会った。
 今年の新人王はセリーグはジャイアンツの救援投手で、二十セーブを記録したドラフト一位ルーキー大盛、パリーグはレッドスターズの二年目で十七試合に登板し六勝五敗、防御率二.七〇という先発ローテーションの一角を占めた藤木投手と、どちらも投手が選ばれた。
 インタビュアーを務めた市川アナウンサーは、このところ服装もそうだが、雰囲気が落ち着いてきたという評判だ。
 もともと外見の可愛さに騙される人が多いが、市川はロジックに沿ったコミュニケーションが取れる人で、ゲストから話を聞きだすのがうまい。
「お疲れ様でした」
 市川と挨拶を交わした良太は、「なんか、お疲れみたい」と市川に言われて、思わず顔を赤らめる。
「まあ、ロケ続きで………ああ、でも新人選手、エネルギッシュでフレッシュでいいですよね~」
「あら、ダメですよ、そんなオヤジみたいなこと言ってちゃ。広瀬さんも元気な時は十分エネルギッシュです」
 オヤジ…………。
 良太は空笑いして市川と別れ、オフィスに戻った時は文字通りへろへろだった。

 


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