「あ、これから、森村と一緒にご飯食べに行くんですけど、工藤さん、これから斎藤さんと銀座ですよね?」
良太は一応確認した。
「ああ。たまには料亭に繰り出すとか言い出しやがって、面倒臭い。着替えたらすぐに出る」
工藤は一旦自分のデスクに歩み寄ると、パソコンを立ち上げた。
「銀座まで送りましょうか?」
「いや、タクシーで行く」
「じゃ、お気をつけて」
良太が森村を促してドアを開けようとした時、「おい、良太」と工藤が呼んだ。
「はい?」
「持っていけ」
工藤が差し出したのはいつもの法人カードだ。
ただし、工藤の口座から引き落とされるのだが。
「え」
躊躇する良太に、「必要なものがあれば用意してやれ」と工藤は言った。
「あ、じゃあ、お借りします」
良太はカードを受け取ると、電話をし始めた工藤を残して森村とオフィスを出た。
自分だけなら車を出したのだが、まあ、仕方がない。
さすがに斎藤相手では、いくら嫌いなお座敷であれバックレるわけにはいかない工藤に、良太はご愁傷様、と心の中で苦笑した。
飲んでいるうちに喧嘩腰にさえなったこともある、『美聖堂』の斎藤は、工藤にとって長い付き合いだ。
スポンサーを越えて何だかだと呼びつけられる。
それもこれも斎藤だけでなく、工藤も斎藤のことをジジイなどと陰ではいいつつも気に入っているのだろうと思う。
「工藤さん、スポンサーの接待ですか?」
森村が中華が食べたいと言うので、近くの四川料理のレストランに二人はやってきた。
「まあ、そうなんだけど、『美聖堂』の社長斎藤さんとは工藤は長い付き合いだからね」
「そういえば、工藤さん、スポンサーってビッグネーム多いですよね?」
「MBC時代からの付き合いもあるらしいしね」
中華を二人でというのはちょっと寂しいかもなんて思った良太の想像を超えて、森村は担々麺、北京ダック、小籠包、餃子、麻婆豆腐、青椒肉絲と頼んだものをバクバクと平らげていく。
「モリーの食欲、俺の上をいくわ」
感心する良太のグラスにビールを注ぎながら、「いやもう、奢りって聞けば遠慮なく」と森村は笑う。
もちろん、ここは言い出した手前、工藤のカードに頼らず良太が奢るつもりでいる。
ここまで申し分ない食べっぷりだと、もう笑うしかない。
「それいしても、平和だ~」
最後にデザートの冰醉豆花を口にしつつ、森村が何気なく言った。
「何だよ、それ」
「いやあ、こうしてのんびりお店で美味しいもの食べれて、電車に財布忘れても戻ってくるんでしょ? 日本って」
さすがにそれには良太も反論しないではいられない。
「なわけないだろ? 都市伝説じゃあるまいし。たまたま親切な人が拾ったら戻ってくることもあるかもってくらいだよ。財布も携帯も電車に忘れんなよ?」
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