ナニソレ。
柏木の話はもうゴメンだが、そういう妙な単語を口にしてくれると、気になってしまうだろう。
店を出ると今日は北風が容赦なく吹き付ける。
「うっわ、寒!」
森村はジャケットの襟元を両手でつかむ。
「八時前か。コーヒーでも飲んでく?」
良太もあまりの寒さに、カフェの前で立ちどまる。
「はい!」
寒くても森村の返事は威勢がいい。
「じゃあ、明日は俺、出ずっぱりだから鈴木さんにいろいろ説明してもらってくれるかな?」
「わかりました!」
「明後日午後早い時間なら空いてるから、一緒にスーツ買いに行くか」
「ほんとに、工藤さんって気前いいんですね」
また森村が感心する。
「いや、仕事に必要なものに対しては惜しまないってだけだろう」
こんな寒い夜は温かいコーヒーがありがたい。
「なるほど……でも、工藤さん、じゃ、付き合ってる人っていないの?」
またそこに話が戻るかよ。
「そんな、気になるのかよ? 工藤のこと」
「いや、やっぱ生身の男だしさ。どうしてるのかなって。うちの上司も独り身なんだけど、あの人、結婚はしない主義なんだって。恋人も作らない主義」
「へえ……」
なんか、波多野ってわからないでもないと良太は思う。
「たださ、付き合わないってわけじゃないんだけど、絶対うちに連れてきて紹介しよう、なんてことはなかったな」
森村はボソリと古い記憶を辿るように言った。
「子どもが、モリーがいたからじゃないのか?」
「いや、違うと思う。時々ほんとに人間かって思ったもん」
それを聞くと、良太は吹き出した。
「それ、俺も思った、前に」
「工藤さんはさ、上司なんかと違って、すごく人間味溢れてるってか、なのに独りってさ」
「昔、恋人に死なれたんだって」
良太はあたりさわりのないことを口にした。
「え、そうなんだ? 良太さんは今、彼女いないんでしょ? 合コン? とかで探したりするの?」
「モリー、彼女が欲しいんだ?」
「うーん、何となく、物寂しいっていうかあ」
「こんな寒い日は余計にそう思うよな」
「でしょ?」
「俺は猫いるし」
良太はナータンとチビを思い浮かべて笑う。
「ああ、いいな、あったかそう!」
森村も満面の笑みを浮かべる。
「あのさ、さっき言ってた、生き地獄とかって、何?」
良太はさっきから気になっていることを口にした。
「あ、ああ、それ。良太さん、そんなの知らない方がいいと思うけど」
「そんな、すごいことなのかよ?」
怪訝な顔で良太は聞き返す。
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