春立つ風に181

back  next  top  Novels


 すると森村はうーん、と唸ってしばし考え込んでいたが、「要は法律で裁けないようなところまで行っちゃうっていうか………」と言う。
「つてを辿って情報屋のそのまた知り合いってな場合、陽の当たらないようなところと情報交換するとかあったりして、ギブアンドテイクってやつで、上司が間接的に取引する場合、必ずしも表舞台の人間じゃないこともあったりで。例えば、ヤバイことやってるロシアンマフィアが背後にいたりする?」
 確かに良太は聞きたくもなかった話ではあった。
「以前もクスリ絡みでアジアのどこかの刑務所に終身刑で拘束された男がいたけど、柏木弁護士もそういうような手合い?」
 一瞬間を置いて、森村は「そうだね~」と言う。
「女の人の場合、特に柏木珠紀って美人で若く見えるし、人身売買組織に売られちゃったりとか、多分」
「人身売買って、それ、犯罪じゃないか」
 カフェの店内にもかかわらず、良太は言葉を荒げてしまう。
「もちろん、犯罪ですよ。でもま、彼女も犯罪者だし、柏木珠紀は殺害されたことになってるから日本では生きていてもらっては困るわけです」
 可愛い顔をして森村は怖いことを淡々と言う。
「人権とか無視なんだ。犯罪者でも人間だろ」
 良太は眉を顰める。
「そういう理屈が通らない世界もあるってことです。戦場や紛争なんか、理不尽極まりないし」
「そう……だな。俺はそんな大変なところに行ったことはないし、モリーが言ったように、電車で財布を落としてもひょっとしたら親切な誰かが拾ってくれることもあるような街で暮らしてるから」
「非日常って、いいますけど、それが毎日だったら、もう非日常じゃなくなるでしょ。俺、シリアに送られてやっと除隊してニューヨークに戻ってから、しばらく軽いPTSDになっちゃって」
「え、大丈夫なのか?」
 良太は驚いた。
 そんな非日常を生きていた人間が今、こんなに間近にいること自体あり得ないことだった。
「大学行ってた頃、ちょっと続いたけど、今は平気。上司が、それもあって日本で仕事しないかって言ってくれたんです」
 波多野、それこそ非人間っぽいと思ってたけど、案外、森村思いのところあるじゃん。
「ああ、でもさっきの、柏木珠紀がロシアンマフィアとか、工藤さんには話さない方がいいかも。好きな相手がそんな闇落ちとか、知りたくないだろうし」
 森村が神妙な顔で付け加えた。
 工藤は案外、波多野に既に聞いているのかも知れない。
 それに、柏木弁護士に対してはさほど感情移入とかしてなかったかもだし。
 良太はそんなことを思う。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます