春立つ風に182

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 なんか、工藤、言い訳がましく、俺はあの女とは一切何もないからな、とか何とか言っていたような気がするし。
 仕方ないから、駐車場で抱き合ってたことについては不問に付してやるのもやぶさかではない。
「良太さん?」
 森村に顔を覗き込まれて、良太はハッとする。
「え、何?」
「何か考えごとですか? 上司が、良太さんのこともちゃんと見ておけっていってたし、ほら、工藤さんの祖母がやたら良太さんに付きまとうから」
 それを聞くと、情けなさげに良太は笑う。
「ほんとだよ。ったく、あの魔女オバサン、冗談じゃないって」
「今度、祖母が何か仕掛けてきたらすぐ俺に言ってくださいね」
 森村が真剣な顔で言った。
「うちのバイトって、上司に言われてひょっとして監視するためとか?」
 つい、あの波多野のことだと思うと勘繰りたくもなる。
「あくまでも俺のバイトありきですって。もし青山プロダクションでバイトできたら、当然そのくらいやれよっていう」
「ふーん、まあ、いいや。うちはなかなか新入社員とか入ってくれないから、みんな大歓迎だよ」
「よろしくお願いします!」
 店を出ると、元気よくまた九十度のお辞儀をして、森村は小走りに地下鉄の階段へと向かった。
「シリアとかって、モリーのが地獄から生還してきたってやつじゃないのか」
 森村の話を聞いていると、ただ日本は平和だと言っていていいのだろうかという気になってくる。
 いや、平和じゃなくちゃいけないとは思うけど、戦争や紛争ってドラマの世界の話じゃなくて現実なんだから、我関せずじゃ、やっぱダメだよな。
 久しぶりに猫を遊ばせてやったり、風呂にゆっくり浸かった後で炬燵に足を突っ込んで猫と一緒にぼんやりテレビを見たりしているうちにあっという間に今日が終わる。
「宇都宮さんじゃないけど、やっぱ炬燵最高!」
 また鍋しようとか、言われてたな。
 スキーツアーもあったっけ。
 あ、沢村たちって、そろそろ帰ってくるんだっけ。
 藤堂からはたまに撮影状況などをラインで知らせが入っていたが、至極順調なようだ。
 ケニアでは案の定有吉と沢村がちょっとぶつかったなんてこともあったみたいだが。
 とにかく明日から森村がくるし、オフィスもちょっと賑やかになるかな。
 工藤も名古屋や大阪日帰りとかくらいで、しばらくは東京にいるみたいだし。
 思考はそこでストップし、疲労の極致だった良太はそのまま炬燵で猫と一緒に朝を迎えた。
 炬燵で寝落ちしたにしては、すっきりとした朝を迎えた良太が、十時十分前にオフィスに降りていくと、既に森村が出社して鈴木さんからキッチンや備品棚の説明を受けていた。
「あ、おはようございます!」
 にこやかに森村が挨拶してくる。
「おはようございます。あ、良太ちゃん、今日はもう出かけるの?」
 鈴木さんが声をかけてきた。
「うーん、あと三十分くらいで出るつもりですが、何か?」
「森村くんにマグカップ買って来てもらえないかしら」
「ああ、お安い御用です。モリー、リクエストある?」
 良太は森村に聞いた。
「あ、じゃあ、オレンジっぽい色がいいかも」
「わかった」
 昼は良太が帰る予定の午後一時過ぎに三人で弁当を取って、ささやかな森村の歓迎会をしようということになった。
 

 


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