良太はドキュメンタリー番組の依頼をしていた加賀友禅作家が、東京にある有名デパートで作品展を開いているというので訪ねて行った。
今度は友禅作家とか、この分だと出演交渉しているうちに日本文化の達人になっちまうだろ。
三十代と若手の友禅作家は、自分で描いたという着物に身を包んだ女性だった。
金沢の美大を卒業したのち工房に入って修行を積んだという。
既に番組出演はネットのやり取りと電話で承諾をもらっていたが、初めて本人と話してみると、私で大丈夫なんでしょうか、といささか引き気味だった。
「うちの先生とか、大御所の方々を差し置いて、心配です」
「宮坂さんみたいな、これからの人にこそ、頑張って羽ばたいて頂きたいという趣旨ですから。宮坂さんらしさを存分に発揮されているところを、多くの視聴者の方に見ていただきたいと思っています」
もちろん、さすがに良太が友禅作家の何たるかを知っていたわけではなく、若手の作品群を見せたところ工藤が選んだのが宮坂紀香だ。
念のため、大和屋にも足を運んで綾小路小夜子にもお伺いを立ててみたところ、同じ作家を選んだのだから、二人とも適当に選んだわけではないだろう。
作品展は盛況で、豪華絢爛な手描き友禅の世界に良太も圧倒された。
宮坂は描くだけでなく、織りも手掛けているという。
「知ってます? 機織り機」
展示の一角に制作映像をモニターが映し出していた。
「大きいんですね」
「ええ、母がずっと使っていたものだから随分古いんですけど」
「あれですよね、鶴の恩返しとかでぱったんぱったんやってた」
良太がぼそっと口にした途端、それまで萎縮していた雰囲気の宮坂が吹き出した。
「広瀬さんって、それ、天然ですか?」
笑い出したらなかなか止まらない。
「あ、すみません、俺、トンチンカンなこと」
その一部始終を、オフィスに帰ってから鈴木さんと森村と良太の三人でささやかな歓迎会と称して、近くの有名どころの松花堂弁当を食べながら話したところ、ここでも二人に笑い転げられた。
「俺も知ってる! 鶴の恩返しって童話、ばあちゃんが俺の小さい頃絵本を読んでくれてたし」
森村が懐かしい、と感慨深げにそんなことを言った。
「おばあさまは日本人なのね?」
「そう、若い頃向こうの会社に入ったじいちゃんとニューヨークに来たんだって。俺が小学校上がる頃に死んじゃったけどね」
鈴木さんに問われて森村は軽く口にした。
「お父さまはどうなさったの?」
「知らない。出てっちゃってそれっきり。スペイン系の日本人だったとかって聞いたくらい?」
「あなたも苦労なさったのね」
「うーん、そんな苦労とかって思ったことないけど。戦争とかはいや」
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